表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第7章 岐路
110/148

110 とある夕暮れの

 突然の夕立の気配に、オレは雨やどりができる軒先へと急ごうと、公園の角を曲がった。


 心臓が止まりそうになった。

 雨は段々と量を増してくるが、オレの足はそこで止まってしまった。

 その時、あの日の出来事が脳裏をかすめる。


 が、しかし。

 今日のオレはあいにく傘を持っていない。


 ドクンと音が鳴り出した。

 どうやら心臓は止まらずにすんだようだ。というか、段々と元気に飛び跳ねるようになっていく。


 オレは目をつぶり、大きく息を吸い込んだ。

 そして目を開けて、ゆっくりと吐き出した。


 さあ、と一歩を踏み出すと、軒下のマドンナがこちらを向いた。


 彼女はニッコリと微笑んで、大きく手を振る。


 なんて可愛らしいんだ。


 涼風愛優さん! オレはあなた様をお慕い申し上げています!


 オレは至って平静を装い、やあ、と左手を挙げ雨を避けるべく軒下まで走って行った。


「部活? 制服濡れちゃったね」


 少し雨粒のついた制服を、愛優ちゃんはハンカチで拭ってくれる。


「ああ。秋季大会があるからね。あ、ハンカチ汚れちゃうからいいよ」


 オレは一歩下がって遠慮したが、愛優ちゃんはお構いなしに一歩前に出て背伸びをし、今度はオレの濡れた髪を拭く素振りを見せた。

 思わず彼女の右手首を掴んで、「ホントにいいから」と言うと、「風邪引いちゃうよ」って。

 上目づかいで心配そうに見つめる彼女の愛らしさに、オレは言葉を失った。


 少しの間、見つめ合うようなカタチになってしまい、ハッとしてお互い目を逸らす。


 なぜかオレの口から出て来た言葉は「ごめん」だった。

 慌てて彼女の腕からオレは手を離す。


 鼓動が勢いを増して、オレの胸から飛び出しそうになった。


 なんだか解らないが、オレはそのまま愛優ちゃんにハンカチで濡れた髪を拭かれるまま、その場で固まってしまった。


 ひととおり拭き終わったのか、彼女はおもむろに言葉を発した。


「このままここで雨やどりする?」


「愛優ちゃんは?」


「それとも」


 そう言って彼女は軒下に立てかけていた大ぶりの傘を指さし、続ける。


「一緒に入る?」


 これは、この光景は紛れもなく。


 デジャビュ? デジャブ……。デジャヴ? どれだっけ?

 まあいいや。既視感。


 少しはにかんで言う彼女の言葉に、嬉しい気持ちを悟られまいと、素っ気なく返す。


「べつにいーけど」


 こころなしか、彼女の頬がほんのり色づいているように見えるのは、気のせいだろうか。

 だけどこのまま気づかぬフリをしていよう。


 今日が雨でよかった。

 オレの鼓動が雨音にかき消されて、彼女には伝わらないだろうから。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ