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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第7章 岐路
106/148

106 とある夏休みの終わりに

 午後から愛優ちゃんお気に入りのカフェで待ち合わせをしている。

 いつもの4人で、ただ久しぶりにお茶でもしながら話すか、とか。特別な用事はない。

 誰が言い出したのか。



 約束の時間より少し早めに着き、店のドアを開けようとノブに手をかけると、妙にふんわりと温かい感触がした。


 あれ?


 オレはドアノブを見つめて、一瞬違う世界に飛んでいきそうなぐらい驚いた。そして焦った。

 なんとオレの手とドアノブの間に、ふんわりとした女子の手が挟まっているではないか。

 いや、挟まっているというより、彼女の手の上にオレの手がある状態。

 驚いたオレは顔から火が出そうなぐらいドキドキして、咄嗟に手を離す。


 そういうことには慣れていないから。


「あ、すいません」


 オレがそう言うと、「いえ」と短い返事がした。


 そこではじめてその女子の顔を見たわけだが、そこで遂に頭から湯気が出た。

 いや、実際に湯気が出たわけではないが、そのぐらいこころが沸騰したのだ。


「あ」


 オレの声に彼女も顔を上げる。

 耳まで紅くなっている彼女。可愛すぎる。


「あ、空くん、早いね」


「そういう愛優ちゃんだって」


 あははと笑いながらも、恥ずかしさのあまり会話が弾まない。


 だって、ほら。

 オレ、シャイだから。

 それに奥手なんだ。

 硬派なんだ。


 まさか愛優ちゃんとこんなところで……いや、待ち合わせてるんだから不思議じゃない。

 こんな風に手と手が触れて……ダメだ。ニヤける。


「く、倉井とさとし、遅いな」


 オレは努めて冷静を装った。

 しかし心なしか声がうわずっていたのは言うまでもない。


「でも、まだ時間まで15分もあるよ?」


 あ、そうだった。


「そうだな。じゃ、中で待ってようか」


「そうね」


 オレがドアを開けて、「どうぞ」と愛優ちゃんを促す。

 いつもの席が空いていたので、オレ達は奥の4人掛けのテーブルについた。


 それからしばらくして倉井と悟がやって来て、またいつものように下らない冗談を言い合って、楽しいひとときを過ごすことができた。


 倉井は時折、超真面目に小難しい話をし出して、要所要所で眼鏡の端を左手でクイッと上げる。

 悟は最近、気になる女子がいるみたいで、愛優ちゃんにやたらとその女子のことを聞いている。

 愛優ちゃんも少々の困惑を滲ませながらも、楽しそうだ。

 やはりみんなでこうやって笑い合えるって、幸せなことなんだなって思う。


 何気ない日常は、普段は気づかないけれど、とても素晴らしい時間なんだ。

 失ってからその大切さに気づくのだろう。


 


 しばらく経って、倉井と悟が帰ると言い出した。


「え、さっき来たばっかじゃん」


 オレが言うと、倉井はニヤリと笑みを浮かべる。


「ちょっと野暮用で」


 倉井は眼鏡の端を左手でクイックイッと二度上げる。


「高校生だろっ!」


 っと一応ツッコミは入れておく。

 高校生の野暮用ってなんだ?




 愛優ちゃんとふたりきりになってしまった。

 まあ、それは望んでいたことではあるが、いざふたりになると……というか、ドアノブ事件もあることだし、妙にはしゃぎたい自分と、心臓が破裂しそうなぐらいドキドキしている自分がいる。


 こんな時、どうしたらいいんだ?


 オレがひとりでああだこうだと考えていると、愛優ちゃんが口を開いた。


「ねえ、夕陽が見たい」


 愛優ちゃんの女神のような微笑みに、オレの心臓がドキンと大きく脈打った。



お読み下さりありがとうございました。


次話「107 とある夏休みの終わりの」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] コンサートにお姉さんとの別れも終わり、しんみりとした六章から新章突入ですね。 『べつにいーけど』は空君と愛優ちゃんの二人が中心の話ですけど、その周りの人物達にもスポットライトが当たっていて…
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