103 空港へ見送り
『みんながんばろうぜ!』コンサートの次の日、優希さんはアメリカ留学のため日本を離れた。
オレ達、つまりオレと兄貴と優希さんの妹である愛優ちゃんの3人は空港まで見送りに行き、エールを送ったわけだけれど。
いくら夢を追いかけるためだと解ってはいても、やはり寂しさはあるもので。
べつにもう会えなくなるわけではないと解っていても、やはり。
空港には少し早めに着いた4人。
優希さんが空港のカウンターでチェックインを済ませて、機内預けの荷物をカウンターに預けている間、オレ達3人はこれからどうするか話していた。
「食事でもするか」
兄貴の提案に、オレも愛優ちゃんもすぐオッケーしたが、オレは内心遠慮した方がいいのかという気もする。
「でも、優希さんとふたりでゆっくり過ごしたいんじゃないのか?」
だからオレは兄貴に聞いてみた。
「いや、今から楽しくアメリカに向かってほしいのに、ふたりだと妙にしんみりしちゃうかもしれないじゃん」
それはそうかもしれないけど。
「でも……」
オレが言葉を濁していると、兄貴は言う。
「それに、ふたりでの『行ってきます』『行ってらっしゃい』は、もう済ませたから」
え? ええー!
兄貴の頬がほんのり色づいて見えるのは……気のせいかな。
「そっか。じゃあ、楽しく送り出そうぜ」
オレは口角を思いっきり上げてそう言った。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうもので、いよいよ搭乗前の保安検査場へと向かう。
さっきまではあんなに冗談を言ったり楽しそうにしていた兄貴だが、こころなしかトーンが落ちている気がする。
まあ、別れの時間が刻一刻と迫る中、どうしようもないもやもやが胸の中で大きくなっていく気持ちは解る。
一生の別れではないと解っていても、そんなものだ。
だけど賢明に笑顔を絶やさず、優希さんを思いやる兄貴の姿に、オレの方がウルウルしそうだ。
保安検査場の入り口の前に到着してしまった。
名残惜しいが仕方がない。
優希さんは保安検査場の方をチラリと見てから、オレ達の方に向き直って満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、行ってくるね」
そして爽やかにそう告げた。
「行ってらっしゃい」
「気をつけて」
オレと愛優ちゃんもそれぞれ声をかけた。
「頑張れよ」
兄貴は優しい笑顔で言う。
「海もね」
そう言ってウインクをする優希さん。
今更ながら、お互いを呼び捨てで呼び合っていたのかと気づく。
それほどに想い合っていたのか。
優希さんはクルリと背中を向けて保安検査場の入り口へ入って行った。
まだ少し時間に余裕があったからか、並んでいる人もなく、並ぶために作られたコースを足早に進んで行く優希さん。その進んで行く後ろ姿を3人で見送っていた。
優希さんは途中、一度だけ振り返り、軽く手を上げ、こちらに小さく手を振った。
オレ達は力を込めて手を振り返した。
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