18 ミーティング(2)
「全員わかっているかと思うが、七日後私たちはD半島へ上陸して三十体分の〈蛹〉を持ち出す」
「この人数で、どうやって三十体も出せるっていうの。ヘリコプターでも調達できるわけ」
「だめだめ、ヘリなんてあんな大きな音を立てたら、すぐにクチブトオオハチに囲まれてエンジンが目詰まりするよ」
フルタは自慢げに笑みを浮かべた。上から目線の喋り方が癇に障る。
「そのとおりだ。D半島内で使用できる輸送機器は、完全密閉可能な電気自動車だけだ」
「だったら電気自動車を調達してくれるんだろ」
「もちろんだ。ただし今回のルートは、台風による土砂崩れで、上陸地点から二キロ先が寸断している。そこからは徒歩で行かなくてはならない」
「だったら八キロの道のりを往復して〈蛹〉を持ち出すのか。あれ、一体三十キロぐらいあるんでしょ」
「〈蛹〉を全部持ち出さなくても大丈夫だ。俺たちが必要なのは〈蛹〉の中にある脊髄部分だけだ。それだけなら七百グラム弱で、保冷剤とクーラーの重量を入れても、二人で充分運送できる重量になる」
「装備はどうなっている」
ミヤギだ。妙に間延びした声だった。
「防寒着と防毒マスク、それにショットガンが各自支給される」
「火炎放射器は」
「却下されたよ。仮に火災となったらえらいことになるからな。海保の船が大挙して来れば、逃げるどころじゃなくなる」
「あんな場所、いっそのこと燃やしちまえばいいのに」
「法律上、一応〈蛹〉は人だ。全員回収しない限り、手を出せないのさ。それに、下手に燃やしたら、中にいる虫どもが一斉に逃げる可能性がある。人権なんて屁とも思っていない中国人が森を燃やせないのも、虫の拡散を恐れているからだ」
「ややこしい話だな。ところで殺虫剤なんかは効果ないのか」
「だめだめ。確かに小さな個体には効果があるけど、大型のミナミゴキブリモドキとかムルターンオオカミキリには効果がないんだ。毒性が強いと言われている塩素系でもだめだよ。青酸系のガスならイチコロだけど、虫を殺す前に僕らがやられちゃう」
「お前、誰だ」
得意げに喋りつつけるフルタをミヤギが冷たい目で見いてた。
「昆虫関係の専門家だよ。お互いプロフィールは公開しない約束だから、詳しくは話さないけどね」
「虫オタクよ。ネットで調べれば、こんな奴なんか掃いて捨てるぐらいいるわ」
「僕は違う。あんなのと一緒にしないでくれよ」
「だったらなんなのさ」
何か言いたそうな顔をしていたが、子供のように口を尖らせたまま黙った。
「全く。こんな面子で大丈夫なの。自衛隊員だって二人死んでるんでしょ。あんたたちが死ぬのは勝手だけど、あたしの足は引っ張らないでもらいたいわね」
サコタはじろりと周囲を睨み付けた。
「お前こそ俺の足を引っ張るんじゃねえぞ」
ミヤギが表情のない顔を向けた。
「なんだと」
「二人ともよせ」
いきり立ち、腰を上げかけたサコタを、橋山がめんどくさそうに手で制した。
「こんなところで揉めてどうするんだ。それより早速だが、D半島へ上陸するに当たり、これから訓練を受けてもらう。各自着替えて外に出てくれ。時間は三十分後だ」