19 訓練
私たちは五日間冬山で訓練を行った。サコタは銃の扱いにも慣れており、体力もあった。杭にかぶせた空き缶をほとんどミスすることなく打ち抜いていく。
ミヤギはこういうのは初めてなんだといいながらも、すぐに扱いに慣れていった。きっと短銃程度は使ったことがあるのだろう。
私と祐美恵は手間取ったが、三日目には缶に当てられるようになった。問題はフルタだった。見た目の通り不器用で、発射時の反動で銃口がぶれ、どうしても缶に当たらない。サコタに怒鳴りつけられながら、当たるようになったのは最終日になってからだった。
雪の山中を片道十キロ往復する訓練も行った。雪は十センチ程度しか積もっていなかったが、滑るし、銃と弾薬を携帯していたのでかなり消耗した。ここでもフルタが最初に脱落した。
「橋山、あのフルタって奴をはずしてくれよ」
食事の後、疲れ切ったフルタが頼りない足取りでダイニングルームから出て行くと、サコタが詰め寄った。
「あいつは域内の昆虫の生態に詳しいんだ。行けばきっと役に立つ、それにもうあいつをメンバーに入れるのは決定してるし、あんたに決定権はない」
「だったらあたしが降りると言ったらどうする」
憎々しげだったサコタの顔から表情が消えた。じっと橋山を見る。フルタはどうにでもなるが、自分がいなかったらこのプロジェクトは成立しないぞ。そう語っている。
「抜けるのは自由だがな、契約違反になるから、それなりのプレミアムを払ってもらうよ」
サコタの顔がゆがみ、目に怒りの色が浮かんだ。
「抜けるなら早めに言ってくださいよ」
橋山が薄く笑った。
サコタは鼻を鳴らし、コップに残っていたビールを飲み干した。
「だいたい、なんでフルタにこだわるんだよ」
それまで黙って楊枝で歯の間を掻き出していたミヤギが発言した。
「奴が遅れたらどうするんだよ。待ってるのか」
「簡単だ。置いていけばいい」
ミヤギがニタニタ嫌らしい笑みを浮かべた。サコタの目へ、わずかに怯えが走った。
「お前、どうせ自衛隊出身だろ。戦争をしない軍隊らしいよな。いくら体力があったって修羅場はくぐってないんだ。下手な情をかければお前が足を引っ張られるぞ」
「ミヤギの言うとおりだ。一応集団で行動するが、落ちこぼれれば容赦なく切り捨てる。これでいいな」
サコタが頷く。橋山の視線が私たちに向いた。
あんたたちも落ちこぼれ候補だ。冷たい目がそう語っていた。
その間祐美恵は、淡々と冷凍食品のチャーハンと餃子を食べて続けていた。彼らのやりとりに、感情を露わにすることもなかった。
ここへ来てから、祐美恵は必要なこと以外喋らなくなり、口数がめっきり減っていた。表情も乏しくなり、黙々と訓練を続けていた。
もちろん冗談なんか言えるような状況でないのはわかっているが、疲れた顔も出さないのは違和感があった。久斗の話さえもしない。
「お前、大丈夫か。疲れてないのか」
そう言っても、ただ首を横に振るだけだ。
まるで蛹だ。
そう思い、思わず背筋から寒気がしてきた。




