花売りの一息
花売りはどこかのバーのカウンターでローズジュースを飲んでいた。バーなのにソフトドリンクとは如何に。しかし誰も彼を咎めない。それがいつもの彼だから。
カランカランと来客を知らせるドアベルが鳴る。そこには燃えるような赤い髪の美女がいた。
美女は花売りに気がつくと隣に座り、
「マティーニを」
とバーテンダーに注文し、花売りの方を見る。
「久しぶりね、アルフレド。今は確かジパングにいるんだっけ?」
花売りはにっこり微笑んで答える。
「ああ、ミランダ。ジャパンさ、ジャパン。ニホンだね」
「ああ、今はそうね。極東の島国になんて行って何が面白いの?」
花売りはローズジュースをくいと飲んで言う。
「いろんな人や花がいる。面白いよ」
ミランダはいたずらっぽい笑みで話す。
「あなたは昔からそう。何が面白くて花を売り歩くの?」
花売りは笑う。
「花には魔法があるんだ。僕はそこにほんの少し魔法をかけるだけ。そして悩んでいる人達の背中を押すんだ。それだけ」
ミランダはくすりと笑みを溢す。
「あなたは立派な『花売りの魔法使い』ね」
「お褒めに預かり光栄です」
花売りはうやうやしく頭を下げる。
そこへバーテンダーがミランダの席にグラスを置いた。
「マティーニでございます」
「ありがと」
ミランダはグラスに口をつけ、花売りに告げる。
「そんなあなたの目的は何?」
花売りは当然、というように答える。
「みんなの幸せ」
花売りはグラスのローズジュースを飲み干して席を立った。
「あら、もう行くの?」
「うん。花を待っている人がいるから」
花売りは会計を支払い、店を出た。
さあ、あの子にはどんな花を渡そう。花売りは顎に手を当て考える。
これは、お人好しの花売りが花で世界を変える。そんな物語。




