交差領域の影
2.交差領域の影
宇宙環境省通信管理課のフロア。
奈紗は端末に向かいながら、ふと肩の力を抜いた。
「よし。強化システムの最終チェック、完了」
小さく息をつくと、隣の席から海翔が覗き込んでくる。
「早いな」
海翔が微笑む。嬉しくて微笑み返す奈紗。
そのとき、空間に淡い光が集まり、SOLAの立体映像が現れる。
「二人とも、仕事です」
SOLAは資料を転送する。
「第35区域のインフレーション終了まで、残り2時間。終了と同時に、交差領域に通信障害が起こると観測されました」
奈紗は資料を開く。海翔も。
――この《波形》、なんかおかしい。
SOLAは奈紗の様子に気付く。
「何かありましたか?」
「あ、いや」
「何かありましたね。脳波が乱れています」
「え」
この時代、人工知能は人類の脳波を感知でき、何を考えているかが分かる。
「……言わなきゃダメ?」
「はい」
「う。……この波形、いつもと違う様な気が」
SOLAは資料を見直す。
「……」
どうやら、分からないようである。
「人工知能には、分からない?」
海翔が呟く。すると、SOLAは海翔をまっすぐ見る。
「え、何?」
ジーッと見る。
「…何ですか」
そのまた、ジーッと見る。そして、一言。
「なるほど、理解しました」
「人の感覚、盗んで理解しないで!」
海翔は怒る。
「この第35区域と第75区域の交差区域ですね」
「はい」
――ちゃんと、理解してる。
海翔は呆気にとられる。
「次元の壁の影響?」
奈紗が質問する。
「いいえ。まだ、分かりません」
「どうしようか?」
奈紗は考える。
「とりあえず、通信システムの強化を優先して下さい」
「はい」
奈紗は頼もしく、頷いた。
奈紗は画面を見て考える。どのように強化するのかを。そして、転送。強化が完了した。
「海翔も終わった?」
奈紗は振り返る。真後ろの海翔も終わったようだ。笑顔で振り返る。
そして、いつもの雑談。こんな平和な未来を人類は手に入れた。しかし、外部では、人工知能の忙しい業務があるのが、現実だ。
「ん?」
奈紗は思い出した。
「どうした?」
「そう言えば、昔、私、似たような論文を書いてたなぁと思って」
「論文?」
海翔がきょとんとする。
「うん。あ、これこれ」
奈紗は記憶を思い起こし、データとして、画面に映す。
『インフレーション期終了の危険性』
「って、主に何?」
海翔は聞く。
「永久インフレーションが重なった交差区域で、インフレーションが同時に終わったときの危険性」
「え?」
「もし、同じ次元として誕生していたら、空間が二重になってしまうってやつ」
奈紗が説明する。
「それがどう関わって来るんだ?」
「さっきの波形」
「うん?」
「二つのインフレーション領域で、同じだったから」
「あぁ、そうか」
二人はのらりくらり話す。
「もっと、危機感もってくれー!」
SOLAが間に入ってくる。
「あ、いたの?」
「えぇ、先ほどからずっと、超個体状態でしたよ」
SOLAが説明する。
「そうだったんだ」
「……」
――もっと、驚いて!
SOLAは困惑した。




