違和感。
「あの、ミヤコちゃん、大丈夫ですか、ね」
「なんの話ー!?」
初日の給食の時間に、泣き止むことができずに牛乳パックの壁裏でしばかれていた子どもはミヤコちゃんと言った。何も聞かずに部屋に入ったので、まだ名前を覚えておらず、服に書いてある名前を辿ってその名前を知った。
私は給食が終わって、みんなが眠る時間になって、ようやく担任の先生に聞いた。
小声で聞いたのにも関わらず、担任は大声で返してきて面食らう。
「いや、あのものすごい、泣いてませんでしたっけ」
「あーパニックパニック!もう大丈夫やから!それよかあんた!見事に何もでけへんな!何ができるん!」
あ、圧迫系上司。
ここで働き出す前は、普通に会社員として働いてきた経験があったので、こういったハラスメントには少しばかりの免疫があった。
「何に対して仰ってます?」
「なんの話ー!?」
話にならない。
ふと、子どもたちを見ると、布団の中から皆がギラギラした目でこちらをみている。昼寝だと言うのに、電気は煌々とついている。
次に教室の端に目をやる。
まだ食べている子どもたちが数名いるために、電気を消すことはできない。
「ねーや!!目ぇつむりなさい!!」
教室にはたくさんのおもちゃが置いてあり、その合間合間に縫うように布団が敷かれている。それでいて電気もついているために、子どもたちはどうしてもおもちゃに目が行ってしまい、眠るのに苦労しているように見えた。
「・・・・」
私は、心の中で少しばかりパニックを起こしかけていた。
(これって、どうなの…?え、普通なの?こう言うもんなの?自由保育って…。)
この言葉が100回くらい、浮かんでは消えていく。
机の上で作業をし出した先生に、私は聞いた。
「あの、もし良かったら、クラス名簿のコピーか何か頂けないでしょうか?あと、発達に特性があったり、身体面で注意が必要な子がいれば教えていただきたいです」
無視だった。
その日の夕方。
悶々とした状態で、帰りにスーパーへ寄った。
カニカマ、タコ、おろし生姜のチューブ、カリフラワー
どんどん入れていく。
その時だった。
「あ!新しい先生や!」
今日部屋にいた女の子が声を掛けてきてくれたのだ。
「あ、えーと」
「りなやで!!」
横には親御さんがいて、顔を引き攣らせている。
「えっりな!また先生変わったん!?」
親御さんは驚いて私の顔を見た。
というか私も驚いた。
「あ、あの、今日から配属されました。武田ゆみと言います。」
「えー、りなの母ですー。ていうか先生でもう三人目なんですけどwなんでそんなコロコロ補助の先生変わるんですか!?」
「えっ三人目!?どういう意味ですか?」
「いやこっちが聞いてるんですけど!」
「あの私、この園自体が入ったばかりでして、事情を詳しく知らないんです」
「あ、そう言うこと…いや、なんでもありません、失礼しました。りな!いくで!」
母親とりなちゃんは、去っていった。
家に帰ってから、私は夫に今日あったことを話した。
夫は、帰るなり私に愚痴を聞かされた訳だが、最後までちゃんと聞いてくれた。
そして少し黙って考えて、こういった。
「いやフツーにやばいやろ。やめたら?」
夫の一言に心が揺れた。
やっぱり普通にやばいんや。と私は思った。
でも当時35歳で、子どもも小さく、田舎なので保育園自体が少ない。
そう簡単に次が見つかるとは思えなかった。
「どうしよう…でも入ったばかりだし、もうちょっと頑張ってみようかな、えーどうしよう」
なんだか煮え切らない気持ちで、私は布団に入ったのだった。
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