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【第13章‑5】 価値の流れを読む

闘茶の部屋を出ると、

廊下の空気がひんやりとした。

さっきまでの熱が、

背中にまだ残っている。

四郎次郎は歩みをゆるめ、

久秀の横に並んだ。

「久秀様。

都には、

静けさの流れと、

熱の流れがあります。」

久秀は、

その言葉を胸の中で受け止めた。

廊下を抜けると、

外の空気が広がった。

夕暮れの光は薄れ、

町の屋根が淡く沈んでいく。

四郎次郎は、

会所の門を出たところで立ち止まった。

「さっきの座敷、

どう見えました?」

久秀は少し考え、

静かに答えた。

「……茶碗の順番で、

人の位置が決まっていました。」

四郎次郎は頷く。

「ええ。

あれが“静けさの流れ”どす。」

四郎次郎は、

通りを行き交う人々を指した。

「そして、

闘茶の部屋で見たのは、

“熱の流れ”どす。」

久秀は、

闘茶の男たちの目を思い出した。

笑っていても、

その奥には競い合う火があった。

四郎次郎は続ける。

「都はな、

静けさと熱、

両方で動きます。

どちらか一方では、

流れが偏る。」

久秀は、

その言葉の意味をゆっくりと噛みしめた。

静けさの座敷。

熱の座敷。

名物の時間。

茶の政治。

闘茶の欲。

それらが、

別々のようでいて、

どこかでつながっている。

四郎次郎は、

久秀の方へ向き直った。

「久秀様。

価値というのは、

物の値やあらしまへん。

“流れ”どす。」

久秀は、

その言葉に胸がふっと開くのを感じた。

四郎次郎は続ける。

「名物の来歴も、

茶の順番も、

闘茶の熱も、

すべて流れを生みます。

その流れを読める者だけが、

都で物ごとを動かせる。」

久秀は、

通りを渡る風を感じた。

その風は、

会所を抜け、

町を巡り、

人の思いを運んでいく。

──流れ。

──価値は、

流れの中にある。

久秀は、

静かに息を吸った。

「……四郎次郎殿。

私は、

その流れを読めるようになりたい。」

四郎次郎は、

穏やかに微笑んだ。

「久秀様なら、

きっと読めます。

今日、

その入口に立たはった。」

久秀は、

会所の屋根を見上げた。

静けさと熱。

時間と欲。

座敷と通り。

それらが重なり、

都の“価値の流れ”をつくっている。

──この流れを読むことが、

これからの務めになる。

久秀は、

その決意を胸に刻んだ。

夕暮れの風が、

静かに町を渡っていった。


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