表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
68/141

【第13章‑4】 闘茶の萌芽

正式の茶席が終わると、

座敷の空気がゆっくりと緩んだ。

公家の使いは退出し、

堺の商人と三好家の家臣も

それぞれの挨拶を済ませて席を立つ。

四郎次郎は、

久秀にだけ聞こえる声で言った。

「久秀様。

この会所には、

もうひとつ“別の席”があります。」

久秀は、

その言葉の意味を測りかねた。

四郎次郎は立ち上がり、

座敷の奥にある細い廊下へと歩き出す。

「こちらどす。

正式の茶とは違います。

けど……

都の“熱”は、

こっちの方が強いかもしれまへん。」

廊下の先には、

小さな部屋があった。

襖が少し開いており、

中から低いざわめきが漏れてくる。

正式の茶席とは違う。

声がある。

笑いがある。

そして、

どこかに“勝負”の匂いがあった。

四郎次郎が襖をそっと開けた。

そこには、

五、六人の男たちが座っていた。

堺の商人、

若い武家、

旅装の男。

彼らの前には、

同じ形の茶碗がいくつも並んでいる。

茶を点てるのは、

会所の若い者。

点前ではなく、

ただ“勝負のための茶”を作っている。

四郎次郎が言う。

「闘茶どす。

茶の味を当てる遊び。

まだ遊びの域を出てへんけど……

そのうち“技”になります。」

久秀は、

男たちの表情を見た。

笑っている。

だが、

その目は真剣だった。

茶碗が一つずつ配られる。

男たちは、

茶を口に含み、

わずかに目を細める。

「これは……

筑前の青柳か?」

「いや、違う。

もっと渋みが深い。」

「堺の宗及が持ってきた茶やろ。」

言葉が飛び交う。

だが、

その裏には

“名物の扱い”とは違う種類の熱があった。

久秀は、

その熱に気づいた。

──これは、

茶の湯の外側にある“競い合い”。

──だが、

この競い合いが、

いずれ大きな流れを生む。

四郎次郎が、

久秀の横顔を見て言った。

「久秀様。

茶の湯は静かに人を並べます。

けど、

闘茶は人の“欲”を動かします。」

久秀は、

その言葉を胸の中で転がした。

静けさの座敷と、

熱の座敷。

どちらも、

都を動かす力を持っている。

男たちの声が高まる。

「当たりや!

やっぱり青柳や!」

笑いが起こる。

だが、

その笑いの奥に、

金と名誉と腕前が絡み合っていた。

四郎次郎が言う。

「遊びどす。

けど……

遊びは、

いつか“技”になります。

技は、

人を動かします。」

久秀は、

その熱を静かに見つめた。

──これが、

闘茶の始まりなのか。

──この熱が、

いずれ都を揺らすのか。

座敷の奥で、

新しい茶碗が並べられた。

その瞬間、

久秀は悟った。

茶の湯の静けさの裏に、

もうひとつの“価値の流れ”がある。

それは、

まだ小さな芽。

だが、

確かに熱を帯びていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ