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【第10章‑1】初めての外歩き
襖の向こうで、
紙を扱う小さな音が続いている。
宗久が座敷で文を整えているのがわかった。
やがて、
「久秀。」
落ち着いた声が届いた。
久秀が襖をそっと開けると、
宗久は筆を置き、こちらを見た。
「今日は、母様と一緒に、町の様子を見てきなさい。」
声は淡々としていた。
「……はい。」
久秀は小さく答えた。
志乃はすでに支度を整えていた。
淡い色の小袖に、歩きやすい草履。
髪がきちんとまとめられ、
姿勢がまっすぐに立っている。
「行きましょう、久秀。」
門を出ると、
家の中とは違う風が頬に触れた。
乾いた匂いがわずかに混じり、
遠くで人の声が続いていた。
荷車の軋む音も聞こえた。
町の音が、
久秀の耳に一気に入ってきた。
久秀は志乃の袖に手を伸ばした。
志乃は小さく笑った。
「大丈夫。今日は、見るだけでいいのよ。」
久秀はうなずいた。
家の線が背後に遠ざかり、
町の光と音が近づいてきた。
久秀にとって、
家の外の風に触れる最初の一歩が、
ここから始まった。




