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序章 前夜 【序章‑1】 揺れる畿内の空気
畿内の空は、いつもどこか暗い。
戦が続き、町が落ち着く日は少ない。
ある日、争いが起きた。
次の日には和睦の話が出る。
また別の日には、別の争いが始まった。
そんな毎日が続いていた。
昨日の勝者が、今日は敗者になる。
名物の値も、武家の力も、公家の立場も、すぐに変わる。
都には、焼けた家と新しい家が並んでいる。
昨日燃えた場所で、今日は市が開かれた。
人々は、変化の早さに慣れている。
寺では、僧が静かに経を唱えている。
その声の奥には、疲れがにじんでいた。
公家は、自分たちの力が弱くなっていくのを感じている。
商人は、物の値段に振り回されていた。
畿内は、落ち着かない土地だった。
その落ち着かなさが、この物語の始まりにふさわしい。
風が吹く。
町がざわつく。
それだけで、誰かの立場が変わる。
そんな中で、まだ名もない少年が生きている。
彼が表に出る前から、畿内はずっと不安定だった。
その不安定さが、彼を迎える準備のように見えた。
この先に、三好長慶が頭角を現す。
さらにその先で、松永久秀という男が姿を見せる。
だが今はまだ、誰もその名を知らない。
ただ、風だけが知っている。
この先に、新しい物語が始まることを。




