表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なまえのないきもちとちいさなヒミツ  作者: しあきひより


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

第4話:だれもしらないばしょ

ノアは、図書室が好きだった。


休み時間になると、いつも図書室に来る。


本の匂いが好きだった。

静かな空気も好きだった。


今日も、ノアは、図書室の奥の席に座っていた。


手には、古い図鑑。


「深海の生き物」という本だった。


ノアは、ページをめくった。


暗い海の底。

光が届かない場所。

そこに住む、不思議な形の魚たち。


ノアは、その写真をじっと見つめた。


「きれいだな…」


小さくつぶやいた。




そのとき、友達のミミとリンが、図書室に入ってきた。


「あ、ノアちゃん! ここにいたんだ!」


ミミが、嬉しそうに手を振った。


「ノアちゃん、外で遊ぼうよ!」


リンも、ノアに近づいてきた。


ノアは、本を閉じて、二人を見た。


「ごめん…。今、この本読んでて…」


「また本? ノアちゃん、いつも本読んでるよね」


ミミが、少し不思議そうな顔をした。


「深海の生き物…? なにそれ?」


リンが、ノアの本を覗き込んだ。


「深い海に住んでる、魚とか…」


ノアは、説明しようとした。


でも、リンは、もう興味をなくしたみたいだった。


「ふーん。よくわかんないけど、

 外のほうが楽しいよ! ね、ミミちゃん!」


「うん! ノアちゃんも来てよ!」


二人は、ノアを誘った。




ノアは、本を棚に戻して、二人と一緒に外に出た。


校庭では、みんなが鬼ごっこをしていた。


「ノアちゃんも一緒にやろう!」


ミミが、ノアの手を引いた。


ノアは、鬼ごっこに参加した。


走って、逃げて、笑って。


楽しかった。


でも、ノアの頭の中には、さっきの深海の魚が浮かんでいた。


(あの魚…、どうやって暗い海で生きてるんだろう…。

 光がないのに、どうやって餌を見つけるんだろう…)


「ノアちゃん、ぼーっとしてるよ!」


リンの声で、ノアは我に返った。


「あ、ごめん…」


ノアは、また走り出した。




午後の授業が始まった。


先生が、算数の問題を黒板に書いている。


ノアは、ノートを開いた。


でも、問題を解きながら、ノアの頭の中には、また深海の魚が浮かんでいた。


(あの魚、なんていう名前だったかな…)


ノアは、ノートの端に、小さく魚の絵を描いた。


長い触手。

光る体。

大きな目。


「ノアちゃん、答えがわかる?」


先生の声で、ノアは顔を上げた。


「え…。あ、はい…」


ノアは、慌てて黒板を見た。


でも、問題が何だったのか、よくわからなかった。


「ノアちゃん、大丈夫? ちゃんと聞いてた?」


先生が、心配そうに聞いた。


「すみません…」


ノアは、小さく答えた。




放課後、ノアは、また図書室に行った。


さっきの本を、もう一度借りた。


家に帰って、ゆっくり読みたかった。


図書室を出ると、ミミとリンが待っていた。


「ノアちゃん、また本借りたの?」


ミミが、不思議そうに聞いた。


「うん…。深海の生き物の本…」


「ノアちゃん、なんでそんなの好きなの?」


リンが、首をかしげた。


ノアは、本を抱きしめた。


「だって…、すごいんだよ。

 暗い海の底で、光る魚がいて…。

 誰も見たことない場所で…」


ノアは、一生懸命説明した。


でも、ミミとリンは、よくわからないという顔をしていた。


「ふーん…。でも、暗い海って、怖くない?」


「うん。わたし、そういうの苦手…」


二人は、あまり興味がなさそうだった。


ノアは、黙ってしまった。




ノアは、一人で帰り道を歩いていた。


本を抱きしめて、ゆっくりと歩いた。


(ミミちゃんもリンちゃんも、わかってくれなかった…。

 深海の魚の、どこがすごいのか…)


ノアは、立ち止まった。


道の端に、小さな水たまりがあった。


ノアは、水たまりを覗き込んだ。


空が映っていた。


青い空。


白い雲。


(この水たまりの底…。

 深海みたいに、暗くて、誰も知らない場所…)


ノアは、そう思った。


そして、また歩き出した。




家に帰ると、おかあさんが出迎えてくれた。


「おかえり、ノア。今日も本借りたのね」


「うん…」


ノアは、本を見せた。


おかあさんは、本の表紙を見て、少し困った顔をした。


「深海の生き物…? ノア、こういうの好きなのね」


「うん。すごくきれいなの」


ノアは、本を開いて、おかあさんに見せた。


光る魚の写真。


「ほら、この魚、暗い海の中で光るんだよ。

 それで、餌をおびき寄せるの」


ノアは、一生懸命説明した。


おかあさんは、写真を見て、小さく笑った。


「へえ、そうなんだ。よく知ってるのね」


でも、おかあさんの目は、あまり興味がなさそうだった。


ノアは、おかあさんの顔を見上げた。


おかあさんの顔は、大きくて、やさしかった。


ノアは、もっと説明しようとした。


(この魚のすごいところ…。

 誰も見たことない場所で生きてるところ…。

 それが、どれだけ不思議で、きれいで…)


でも、ノアの口は、動かなかった。


おかあさんは、きっと言うだろう。


「そうね、すごいわね」

「でも、ノアももっと外で遊んだほうがいいわよ」

「本ばかり読んでないで」


おかあさんは、やさしい。


でも、おかあさんには、わからない。


この魚が、どれだけノアの心を動かしているか。


ノアは、小さく答えた。


「…ありがとう」




夜になった。


ノアは、自分の部屋で、本を読んでいた。


ベッドの上に座って、ページをめくった。


深海の魚。


暗い海。


誰も知らない世界。


ノアは、写真をじっと見つめた。


「きれいだな…」


小さくつぶやいた。


でも、誰も聞いていなかった。


ノアは、窓の外を見た。


夜空に、星が輝いていた。


(この魚たちは、星を見たことがあるのかな…。

 暗い海の底から、空を見上げたことがあるのかな…)


ノアは、そう思った。


そして、また本に目を戻した。


一人で読む本は、静かで、落ち着いた。


でも、少しだけ、寂しかった。




次の日の休み時間。


ノアは、また図書室に来た。


いつもの席に座って、本を読んだ。


深海の生き物の本。


ノアは、ページをめくりながら、小さくため息をついた。


(みんなには、わからないんだ…。

 この魚の、すごいところ…。

 きれいなところ…)


そのとき、図書室の扉が開いた。


ノアは、顔を上げた。


入ってきたのは、先生だった。


先生は、本を探していたけど、ノアに気づいて近づいてきた。


「ノアちゃん、また深海の本読んでるの?」


「はい…」


ノアは、小さく答えた。


先生は、椅子に座って、ノアの本を覗き込んだ。


「深海の生き物、好きなのね」


「はい…。すごくきれいで…」


ノアは、写真を見せた。


先生は、写真をじっと見た。


でも、先生の目も、あまり興味がなさそうだった。


「そうね。でも、ノアちゃん。

 たまには、外で遊ぶのもいいわよ。

 友達と一緒に」


先生は、やさしく言った。


ノアは、先生の顔を見上げた。


そして、黙ってしまった。




放課後。


ノアは、また一人で図書室にいた。


本を読んでいた。


でも、今日は、あまり集中できなかった。


(誰も、わかってくれない…。

 この魚の、すごいところ…)


ノアは、本を閉じた。


そして、窓の外を見た。


校庭では、みんなが楽しそうに遊んでいた。


ミミとリンも、笑いながら走っていた。


ノアは、それを見て、小さくため息をついた。


(わたしも、あっちに行けばいいのかな…。

 でも、わたしは、こっちのほうが好き…)


ノアは、また本を開いた。


深海の魚。


暗い海。


誰も知らない世界。


ノアは、その写真をじっと見つめた。


(この魚たちも、一人なのかな…。

 暗い海の底で、一人で泳いでるのかな…)


ノアは、そう思った。




ノアは、家に帰った。


おかあさんが、夕飯の支度をしていた。


「おかえり、ノア。今日はどうだった?」


「…ふつう」


ノアは、小さく答えた。


おかあさんは、ノアを見て、少し心配そうな顔をした。


「ノア、友達と遊んでる?」


「…うん」


ノアは、嘘をついた。


おかあさんは、少し安心したようだった。


「それならよかった。友達、大切にしなさいね」


「…うん」


ノアは、自分の部屋に入った。




夜になった。


ノアは、ベッドの中で、天井を見ていた。


部屋は、静かだった。


ノアは、小さくつぶやいた。


「誰も、わからないんだ…」


ノアの目が、少しだけ熱くなった。


でも、泣かなかった。


(わたしが好きなもの…。

 わたしが、きれいだと思うもの…。

 誰も、わかってくれない…)


ノアは、毛布をぎゅっと握った。


(でも、いいんだ…。

 わたしは、わかってるから…)


ノアは、目を閉じた。


心の中で、深海の魚が泳いでいた。


暗い海の底。


誰も知らない場所。


でも、そこには、きれいな光があった。


ノアだけが知っている、光。


ノアは、ゆっくりと眠りについた。




次の日の朝。


ノアは、目を覚ました。


窓の外から、朝の光が差し込んでいた。


ノアは、ゆっくりと起き上がった。


かばんの中を確認した。


深海の生き物の本が、入っていた。


ノアは、本を撫でた。


そして、窓の外を見た。


青い空。


白い雲。


ノアは、小さく息を吐いた。


(今日も、図書室に行こう…)


ノアは、かばんを背負って、家を出た。


一人で歩く道は、静かだった。


でも、ノアの心の中には、深海の光が輝いていた。


誰も知らない、ノアだけの光。




【第4話 おわり】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ