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なまえのないきもちとちいさなヒミツ  作者: しあきひより


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第3話:みとめたくないきもち

ハルは、図工の時間が好きだった。


絵を描くのが好きだった。

色を塗るのも、形を作るのも、全部好きだった。


今日のテーマは、「大切なもの」。


ハルは、自分の家を描いていた。


小さな家。

窓が二つ。

煙突が一つ。


ハルは、丁寧に色を塗っていた。




隣の席には、ミコが座っていた。


ミコも、絵を描いていた。


ハルは、ちらっとミコの絵を見た。


そして、手が止まった。


ミコの絵は、とてもきれいだった。


大きな花畑。

色とりどりの花。

空には、虹がかかっていた。


先生が、ミコの絵を見て言った。


「わあ、ミコちゃん。すごく上手ね!」


ミコは、嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます!」


ハルは、自分の絵を見た。


小さな家。

窓が二つ。

煙突が一つ。


ハルの胸が、ちくんと痛くなった。




先生は、教室を回りながら、みんなの絵を見ていた。


ハルの絵の前で、先生は立ち止まった。


「ハルちゃんの絵も、とても丁寧ね」


先生は、にっこり笑った。


でも、ハルは、その言葉が嬉しくなかった。


(丁寧…。

 上手じゃなくて、丁寧…)


ハルは、もう一度、ミコの絵を見た。


ミコの絵は、もっともっと進んでいた。


花に、葉っぱを描いて。

空に、鳥を描いて。

地面に、草を描いて。


ハルの胸が、また、ちくんと痛くなった。




休み時間になった。


友達のミオが、ミコの絵を見て言った。


「ミコちゃん、すごいね! プロみたい!」


「えへへ、ありがとう」


ミコは、照れながら笑った。


ハルは、自分の絵を、そっと机の中にしまった。


ミオが、ハルに気づいて言った。


「ハルちゃんも、上手だよね」


「…うん」


ハルは、小さく答えた。


でも、胸の奥が、ちくちくしていた。


(わたしの絵…、上手じゃない…。

 ミコちゃんの絵のほうが、ずっと…)


ハルは、自分の手を見た。


何度も描いてきた手。


でも、ミコみたいに、きれいな絵は描けない。




お昼の時間になった。


みんなは、お弁当を食べながら、楽しそうに話していた。


ハルも、お弁当を開いた。


おかあさんが作った、おむすびとたまご焼き。


いつものお弁当。


でも、ハルは、あまり食べる気がしなかった。


ミコが、ミオに言った。


「今度の図工展、楽しみだね!」


ミオが、嬉しそうに答えた。


「うん! ミコちゃんの絵、絶対に賞もらえるよ!」


「えー、そんなことないよ」


ミコは、照れながら笑った。


ハルは、おむすびを一口食べた。


おいしかった。


でも、飲み込むのが、少し苦しかった。




帰りの会の時間。


先生が、みんなに言った。


「今日、みんなが描いた絵、とても良かったです。

 来週の図工展に、飾りましょうね」


みんなは、嬉しそうに拍手をした。


ハルも、拍手をした。


でも、胸の奥が、ちくちくしていた。


(図工展…。

 ミコちゃんの絵の隣に、わたしの絵が飾られる…。

 みんな、どっちを見るんだろう…)


ハルは、かばんを背負った。




ハルは、一人で帰り道を歩いていた。


空は、青くて、雲が流れていた。


でも、ハルは、空を見上げる気になれなかった。


(ミコちゃん、すごいな…。

 わたしも、あんな絵が描けたらいいのに…)


ハルの胸が、また、ちくちくした。


(でも…。

 でも、ミコちゃんのこと、嫌いじゃない…。

 むしろ、好き…。

 なのに、なんで…。

 なんで、こんな気持ちになるんだろう…)


ハルは、立ち止まった。


道の端に、小さな花が咲いていた。


ハルは、その花をじっと見た。


きれいな花だった。


でも、ミコが描いた花のほうが、もっときれいだった。


ハルは、また歩き出した。




家に帰ると、おかあさんが出迎えてくれた。


「おかえり、ハル。今日は図工だったのね」


「…うん」


ハルは、かばんから、自分の絵を取り出した。


おかあさんは、絵を見て、にっこり笑った。


「わあ、とっても上手ね。丁寧に描いてあるわ」


おかあさんの言葉は、やさしかった。


でも、ハルの胸の奥は、ちくちくしていた。


(おかあさんは、わたしの絵を褒めてくれる。

 でも、おかあさんは、ミコちゃんの絵を見てない…)


ハルは、おかあさんの顔を見上げた。


おかあさんの顔は、大きくて、やさしかった。


ハルは、言おうとした。


(ミコちゃんの絵が、すごくきれいで。

 わたし、なんか…。

 なんか、胸が痛くて…)


でも、ハルの口は、動かなかった。


おかあさんは、きっと言うだろう。


「ミコちゃんの絵も上手なら、ハルも上手よ」

「人と比べなくていいのよ」

「ハルはハルで、素敵よ」


おかあさんは、やさしい。


でも、おかあさんには、わからない。


この、胸の奥のちくちくが、どれだけ苦しいか。


ハルは、小さく答えた。


「…ありがとう」


おかあさんは、ハルの頭を撫でた。


「図工展、楽しみね」


「…うん」




夜になった。


ハルは、自分の部屋で、絵を見ていた。


小さな家。

窓が二つ。

煙突が一つ。


ハルは、絵をじっと見つめた。


(この絵…、好きだったのに…。

 ミコちゃんの絵を見たら…。

 なんか、ちっちゃく見える…)


ハルは、絵を机の引き出しにしまった。


そして、ベッドに横になった。


天井を見上げた。


(わたし、ミコちゃんのこと、嫌いになったのかな…)


ハルは、目を閉じた。


でも、すぐには眠れなかった。


胸の奥で、ちくちくが、まだ続いていた。


(嫌いじゃない…。

 嫌いじゃないのに…。

 なんで、こんな気持ちになるんだろう…)


ハルは、毛布をぎゅっと握った。




次の日の朝。


ハルは、いつものように目を覚ました。


窓の外から、朝の光が差し込んでいた。


ハルは、ゆっくりと起き上がった。


胸の中を、確かめた。


ちくちくは、まだあった。


でも、昨日よりは、少しだけ小さくなっている気がした。


ハルは、机の引き出しを開けた。


自分の絵を見た。


小さな家。

窓が二つ。

煙突が一つ。


ハルは、小さく息を吐いた。


(この絵…。

 やっぱり、好き…。

 でも、ミコちゃんの絵も、すごい…)


ハルは、絵をそっと撫でた。


そして、かばんにしまった。




ハルは、いつもの道を歩いて学校へ向かった。


空は、青かった。


鳥が、さえずっていた。


ハルは、立ち止まって、空を見上げた。


青い空。


白い雲。


きれいだった。


(ミコちゃんなら、この空を、もっときれいに描けるんだろうな…)


ハルは、そう思った。


そして、また歩き出した。


胸の奥で、ちくちくが、まだ残っていた。


でも、ハルは、歩き続けた。




教室に着いた。


ミコが、ハルに手を振った。


「ハルちゃん、おはよう!」


「おはよう…」


ハルは、小さく手を振り返した。


ミコは、いつもと同じ、やさしい笑顔をしていた。


ハルは、自分の席に座った。


そして、窓の外を見た。


青い空。


白い雲。


ハルは、小さくため息をついた。


(ミコちゃんのこと、好き…。

 でも、胸がちくちくする…。

 この気持ち、なんて言えばいいんだろう…)


ハルは、鉛筆を握った。


そして、ノートを開いた。


いつもの朝が、始まった。




【第3話 おわり】


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