七話
「ふふ。順調。」
教室でさきゅばすは上機嫌にミシルの髪の毛で遊んでいた。
「さっきなんで電源が落ちちゃったんだろう。」
「さあ。でも良い思いできたんじゃないの?」
「…うん。」
ミシルは素直に一度頷いた。
「さきゅばすちゃん、私桃子さんを好きになってもいいんだよね?」
「もちろんよ。どんどん好きになって彼女を手玉にしてあげて。」
「そうしたらどうするの?」
「なにが?」
「もし彼女が私を好きになったら…。」
「教えない。秘密。」
「…。」
「なんで?なんか不安?」
「ううん。」
ミシルは首を横に振った。
「大丈夫。ミシルちゃんを悲しませるようなことはしないから。」
「桃子さんも悲しませたくない。」
「誰がそんな事言ったのよ。ねえ、ミシルちゃんツインテールにしたらどう?可愛いわよ。」
「そうかな…。」
「そうよ。一層子リス感が増してかわいい。」
「…。」
「ねえ見て。ミシルちゃん。あいつらの顔。」
と、ミシルが真横を見た。
すると、何人かの取り巻きが教室の窓側でミシルを見てひそひそ話している。
「くっぷぷ。ミシルちゃんの存在がだんだん脅威になって来てるのよ。」
「…。」
ミシルはその視線に目を反らした。
その瞬間
「ロボットのくせに…。」
と、取り巻きの誰かがボソッと呟いた。
「おさげも可愛いわね。」
さきゅばすには聞こえなかったようで、まだ髪の毛で遊んでいる。
「私、やっぱり無理だと思う。」
「え?」
「ロボットが不死身に恋するの。パートナーになれるわけない。」
「どうしたの急に。ノリノリだったのに。」
「まだ引き返せるから、やっぱり桃子さんの事あきらめる。」
と、さきゅばすの髪をいじってくる手を首を振って振りほどいた。
「気にしてるの?さっきの言葉。」
「聞こえてたの?」
「気にすることない。だって気持ちはかえられないでしょ?やらない後悔よりやる後悔。大丈夫。あいつらが何かしてきたら私に言って。」
「うん…。」
気弱なロボットは静かに頷いた。
だがその日の放課後、ミシルのロッカーの靴は無くなっていた。
「あらら?陰湿ね。」
さきゅばすもそれに驚く。
「手紙入ってるじゃない。」
さきゅばすは謎の白い紙をミシルの靴箱から取り出した。
「話がある。一人で屋上に来い。」
「…。」
「丁度いいじゃないミシルちゃん。」
「え?」
「あいつらやっつけちゃいましょうよ。」
「やっつける…?」
すると、さきゅばすはミシルの手を取って化粧室に向かう。
「ちょっと待ってて。」
「!」
その密室でさきゅばすは突然ミシルの唇にキスをした。
彼女の意識は無くなった。
「ねえ本当にやるの?」
その頃屋上。
数人の女子生徒がそこに突っ立っていた。
リーダー格の気の強そうな女子生徒は、とある一人の女子生徒の肩を叩いた。
「アネル。あのミシルってロボットぶっ壊して。」
「はい…。」
肩を叩かれたアネルと呼ばれた彼女は、そのリーダー格の下僕同然だった。
「負けたら承知しないから。この屋上から突き飛ばすからね。」
「頑張ります…。」
「頑張るじゃねえよ。絶対勝つの。」
「絶対勝ちます…。」
アネルの他にも複数のロボットが招集された。
「これで準備万端ね。」
完全ミシル包囲網を作って待っていると、屋上のドアノブがゆっくり回された。
「来たわね。けど一人で来いって言ったはずよ。」
彼女の隣にさきゅばすがいた。
彼女は余裕そうに笑って辺りを見渡すと、鼻で笑った。
「へえ。寄ってたかってリンチにするつもりだったの。」
「うるさい。お前のそのロボットが桃子さんに気安く話しかけるからだ。ロボットのくせに不死身に恋なんかしてんじゃねえよ。目障り。」
ヤンキー口調のリーダー格は威圧しながら二人に言う。
「いいわよ。力でねじ伏せるならこっちにも考えがある。何されてもロボットが暴走したで済む話になるけど。」
「やってみろ!!!行け!!!」
リーダー格の女子が叫ぶと、アネル含め複数のロボットがミシルに走って襲ってきた。
「私の改造技術のお披露目ね。」
さきゅばすはミシルの右耳に舌を入れてかき混ぜると、ミシルの腕がノコギリに変わった。
それが高速に動いて、複数の襲ってくるターゲットの四肢と頭をくのいちのように華麗に切断した。
「ええ!?なにそれ!?」
「なんなの?」
ゴン!!
バラバラになったロボットは空中分解して鈍い音をさせながらコンクリートに落ちた。
ただの破片となったロボットは廃棄品となってしまった。
「なんだよそのロボット!!聞いてねえぞ!!」
「私が改造したんだもの。おつむレベルの低いあなた達には到底できない事よ。」
彼女はそう言って悪魔のように笑う。
「味見タイム。」
さきゅばすは未だノコギリを振動させるミシルを横に連れながら取り巻きたちに寄った。
屋上のフェンスに蜘蛛につかまった蝶のようになっていると、さきゅばすは一人一人の首筋に嚙みついた。
「痛い痛い!!!!やめて!!」
リーダーの女子の絶叫がこだまする。
「…まっず。」
さきゅばすが血を味見してそう言った瞬間、ミシルのノコギリがリーダーの女子の体をバラバラに引き裂いた。
「きゃああああああああ!!!」
「いやあああああ!!」
屋上が阿鼻叫喚だ。
リーダー格の女子は体をバラバラにされ、辺り一面に体内の血を全てまき散らしてそのまま死んだ。
「許してください!!」
「ごめんなさい!!!」
「もうしません!!!」
一斉に土下座をする彼女たちにさきゅばすは笑った。
「いいわよ。許してあげる。」
さきゅばすはニッと笑う。
「いい?ここであった事すべてこのロボット達のせいって言うのよ。私たちの名前、この先誰かに言ったらこの人みたいになるから。連帯責任でね。」
さきゅばすのその言葉に取り巻きたちは軍隊のように威勢のいい返事を返した。
「…ん。」
ミシルは教室で意識を取り戻した。
「おっはよ。どうしたの?またフリーズしてたわよ。」
その目の先にさきゅばすがいつものように顔を近づけてくる。
「…あれ。」
「もう三日もフリーズしてた。今ようやく電源が戻ったみたい。」
「どうしちゃったんだろう。」
確か靴箱に靴がなかった辺りから記憶がない。
「さきゅばすちゃんに迷惑かけなかった?」
「ううん。全然。」
「それならよかった…。」
ミシルはそう言って胸をなでおろした。