六話
次の日
ミシルは自分の机の上に早速クマを置いた。
手のひらに収まるほどの小さなクマのぬいぐるみ。
ミシルはそれを1人机に伏せながら下から眺めていた。
「可愛いね。それどうしたの?」
「もらった…。」
と、後ろから声をかけてきた相手の顔を見上げた。
「あ…桃子さん。」
あの高嶺の花の桃子が彼女の顔の横に顔を近づけた。
「へえ。ミシルちゃんもこういうの好きなんだね。クマが好きなの?」
「…うん。」
ミシルは好きでも無いのに深く頷いた。
「そっか。可愛いものが好きなんだね。」
「も、ももちゃん。」
「え?」
ミシルは下を向いたままクマに指差しした。
「この子の、名前…。」
「ああ、ももちゃんって言うんだ。よろしくももちゃん。」
と、桃子はそのクマのぬいぐるみに爽やかに挨拶した。
「ミシルちゃんも可愛いところあるんだね。そんな子だとは思わなかったなぁ。」
「ごめんなさい。」
「いい意味でだよ。今までのイメージとのギャップが可愛いって。」
と、彼女はミシルで時間を潰した後、そのまま急いで手を振って廊下に走って消えた。
「来たわ!!」
「あ、桃子さーーん!!!」
「イヤーー!!待って!!」
教室前にいた取り巻き達から隙をついて逃げたようだ。
彼女は、それを避けるために近くにいたミシルに話しかけたのだ。
「…。」
だが、ミシルはクマのももちゃんを見てまただらしなく笑う。
このクマが幸福を運んでくれたのだと思ったからだ。
「ももちゃん。」
ミシルは大事そうにクマのぬいぐるみを撫でた。
「そんなに気に入った?」
さきゅばすがクマのぬいぐるみを撫でている彼女に遭遇した。
「桃子さんが可愛いって。」
「あら、早速引っかかったのね。」
「引っかかる?」
「彼女、最近クマが好きなの。」
「そうなんだ。だからこのぬいぐるみ取ったの?」
「そうよ。じゃなきゃこんなのお金をたくさん無駄にして取らないもん。」
「彼女すごく笑顔だった。」
「私のリサーチ力舐めないでよ。」
「う、うん。」
「また仕掛けに行ってあげようかしら。」
「え?」
「こっち来て。」
「あ…。」
クマのぬいぐるみが椅子の下に落ちたが、さきゅばすは構わず彼女の手を引っ張った。
わけもわからぬまま、彼女の後ろを走るミシル。
「クマがさっき落ちた…。」
「そんなのあと。ねえ、ミシルちゃんここに立って。」
「え?」
みしるとさきゅばすは空き教室に来た。
そしてさきゅばすは突然彼女の唇にキスをして、彼女の上の歯を舌でタッチする。
「!」
バタン
と、ミシルの電源が落ち、そのまま床に崩れた。
「これでよしっと。」
すると、さきゅばすは教室の廊下に出て辺りを見渡した。
「あはは。いたいた。」
さきゅばすは向かいの校舎にいた桃子を見つけるとニヤッと笑う。
「王子様。お姫様はここで寝てるわよ…。」
と、クスクスと笑った。
「ん?」
「大変よ!!誰かー!!」
桃子が反対側の校舎から戻ってくると、さきゅばすが叫んで空き教室から反対側に出ていくのが見えた。
あの問題児に皆がスルーする中、ジェントルマンな桃子はその空き教室に入る。
「!」
桃子は空き教室で倒れているミシルを見つけた。
「ミシルちゃん!?どうしたの?」
桃子が彼女を起き上がらせようと首を持ったが、重すぎてすぐに断念した。
「どうしよう…電池切れちゃったのかな。ん?」
桃子は彼女のポケットからはみ出ている紙を見つける。
それを取ってみると、彼女自身の取扱説明書が入っていた。
「…まず、起動するには唇にキスをして上の歯を舌でタッチします。」
桃子はそれを熟読すると、彼女の唇を見た。
「電源が突然落ちちゃったのかな…。ちょっと失礼するよ。」
桃子は説明書通りに彼女の唇にキスをした上、舌で彼女の上の歯をタッチした。
すると、機械的な音が起動する音がした。
それを聞いた桃子はひとまず胸をなでおろす。
「良かった。壊れちゃったのかと思った。」
ピピ…
「…。」
「あ、おはようミシルちゃん。」
「桃子さん…!!」
瞼を開くと、ミシルは上半身を起こす。
笑顔でしゃがんでこちらを見ている彼女の笑顔がまぶしい。
「どうしたの?急に電源が落ちちゃったの?」
「そうみたいです。記憶がなくて…。」
桃子の後ろには、さきゅばすが唇に人差し指を当ててこっちを見ている。
「ロボットの起動の仕方って面白いね。唇にキスをして舌で上の歯をタッチなんて。」
「…。」
「どうしたの?どこか悪いの?」
「いいえ…。」
ミシルは唇を触った。
「なんか、私たち最近よく話すね。」
「ごめんなさい…。」
「謝る必要なんかないよ。私はミシルちゃんの可愛い一面見れて嬉しいよ。」
と、目を伏せている彼女の頭を優しく撫でる。
「さ、行こう。」
桃子は彼女の手をとり、教室に戻る。
ミシルはその綺麗な横顔にまともに見れないでいた。
「よっしゃ。」
後ろでさきゅばすは静かにガッツポーズをした。




