五話
「桃子さん!!これ、どうぞ受け取ってください!!」
「桃子さん!!これ貴女のために高級なシャーペンを買いました!!毎日私の名前を書いてください!!」
「昨日遅くまで作ったアクセサリーです!私だと思ってつけて下さい!!」
とりまき達はどこからともなく現れ、教室から出てきた彼女を捕まえた。
桃子は一人になるといつも途端に取り巻きに囲まれた。
とてもジェントルマンな彼女は、それを断ることも出来ずに受け取っていた。
「あ、ありがとう。とても嬉しいよ。」
その罪な笑顔は、とりまきたちの心を鷲掴みにした。
「キャーーー!!」
「かっこいい!大好きです!!」
「愛してます!!」
「好き!!」
「ありがとう。大事にするね。」
と、また歯を見せて笑った。
「ぜひ私とパートナーになってください!!」
「いえ、私とお願いします!!」
「ずるい!!私も!!一夫多妻制でも構いません!!」
「ごめんね、宮桜に怒られちゃうから。」
と、差し伸ばされた沢山の手に戸惑っていたその時
「桃子!」
宮桜がその様子に走って戻ってくると、とりまきたちは自分たちを捕まえに来た警察から逃げるように散った。
プレゼントをたくさん抱えている桃子を見ると宮桜は苦笑した。
「また受け取ったの?それ自体あの子たちを傷つける行為になるのよ。」
「ごめん。でも一生懸命考えて選んだものを断るのも出来なくてね。」
「もう部屋にいっぱいいっぱいなんじゃないの?捨てる羽目になるのに。」
「捨てられないよ。全部ちゃんと収納スペースに入れてる。」
「ダメ。今度からは受け取らないで。あの子達私が言っても聞かないんだから。」
「アクティブだよね。」
「笑い事じゃないわ。ねえ、それよりさっき誰かがまた血を奪いに女の子を襲ったらしいわよ。」
「本当?最初のやつじゃなくて?」
「そう。隣のクラスのポニーテールの女の子なんだけど。ミシルさんがまた助けてくれたみたい。」
「そうなんだ。いい子だね。」
「ふふ。人助けが好きなロボットなのかしらね。」
「それはいいことだよ。たまに暴走しちゃうのもいるし、彼女みたいな存在が沢山出来ると助かるよね。」
「でも、あの子と行動しているさきゅばすさんが気になるわ。またあなたを襲ったりしないか。」
「あれから全然何もしてこないから大丈夫じゃないかな。きっとミシルちゃんがお気に入りになったんだよ。」
「…だといいけど。今回の事件がまた彼女の仕業だったら油断できない。」
と、宮桜は少し背の高い桃子をうるんだ瞳で見上げた。
「どうしたの?」
「貴女にはわからないわ。隣にいる私の気持ちなんて…。」
「そんな顔しないで。可愛い顔なのに。おいで。」
桃子は泣きそうな彼女を優しく抱きしめた。
「次は何してやろうかなぁ。」
放課後さきゅばすはミシルとゲームセンターにいた。
目の前のクマのぬいぐるみを取るために、必死になってUFOキャッチャーをボタンで動かしているさきゅばす。
「…。」
ミシルはそれを横で見ている。
「あれが桃子さんなら、こうやって…。」
と、キャッチャーを慎重に茶色のクマの頭上に落とす。
アームが開いて、その頭をとらえた。
「ふふ。こうやって捕まえて…。」
だが、アームの力が弱くすぐにスルッと落ちた。
「ふふふふふ。いくらでも捕まえに行ってやるわ。」
クマではなく、そのセリフは桃子に言ったようにも思えた。
ニヤッと笑う。
「ほら、見てミシルちゃん。何度も何度も繰り返して、穴の中に落とすの。引きずって、倒してね。」
「え?」
「そうするとね…。」
バタン
さきゅばすの操ったUFOが見事にクマを景品コーナーに転がり落した。
それをさきゅばすが拾うと、彼女はそれをミシルに渡した。
「え?」
「あげる。私からのプレゼント。」
「ありがとう…。」
「ミシルちゃんはUFOよ。」
「ユーフォー?」
「そう。私はそれを操る運転席にいて、この可愛いクマちゃんは桃子さん。」
「…。」
「いい?そのぬいぐるみ毎日持ってきて。」
「学校に?」
「そうよ。それは桃子さんだもの。それを持っている限りミシルちゃんは私との契約を忘れないでほしいの。桃子さんを手に入れること。手に入れたら、ミシルちゃんは私のものになる事。」
「それはどういう事?」
「ミシルちゃんは桃子さんを好きでいいけど、私の事も好きでいなきゃダメって事。」
「…。」
「ね?」
「うん。私はロボットだから、さきゅばすちゃんのいう事は絶対に聞くよ。」
「そういうカデコリー分けしないで!!私はあなたが好きなの!ロボットだからっていうの禁止!!」
「う、うん…。」
「約束よ。絶対。」
さきゅばすはそう言って、ミシルの唇にキスをした。
「嬉しい?」
「嬉しい。クマ、可愛い。」
ミシルは笑顔でそのクマのぬいぐるみを抱きしめた。
「そっちじゃないけど、そんなに嬉しいなら私も嬉しい。」
「本当にうれしい。こういうの初めて。」
あまり見せない彼女の純粋な笑顔に、さきゅばすもまた悶絶していた。