四十二話
「無事だったんだ。良かった…。」
ミシルはさきゅばすのいつもの様子に安堵した。
「ちゃんとバッテリー持って来た?」
「持って来たよ。」
と、桃子がポケットに入れたミシルのバッテリーを渡す。
「いいわ。桃子さんが持っといて。付け方わかるでしょ?」
「うん。」
「逃げよう。さきゅばすちゃん。」
ミシルはさきゅばすの手を引っ張った。
「逃げても無駄よ。根絶しないと。それになんで来たのよ。逃がしたのに。」
「置いていけないよ。さきゅばすちゃんは大事な友達だから。」
「あんなこと言ったのに。桃子さんまで。」
「ありがとう。鍵もバッテリーも無かったらあの時死んでたかもしれない。」
「襲われたの?私の家滅茶苦茶になってないわよね。」
「…。」
桃子とミシルは目を合わせて何度も瞬きをした。
「そう。泥棒に入られてなきゃいいけど。」
「ここを根絶するって、勝ち目はあるの?」
桃子は不安そうにさきゅばすに聞いた。
「さあ。その残り半分のミシルちゃんの中のバッテリーと、二本しかないバッテリーが切れたら終わり。全てはミシルちゃんにかかってる。かなりいい奴だからそれを作るだけでも大変だったのよ。大切な結婚生活の為のバッテリーだったのに…。」
「でもミシルちゃん、逃げて来た時すごく熱くなってて心配になった…。」
桃子は、その持っているバッテリーを彼女に装着するのに戸惑っている。
「壊れたりしないかな?」
「さあ。ミシルちゃんの体の補強はこれからするつもりだったわ。このバッテリーに合わせたものをね。だから、最悪この旧式の体がもたないかもしれない。」
「そんなの駄目。ミシルちゃんが壊れるなんて考えたくない。」
桃子は頑なに首を横に振った。
「なら、逃げなさい。今ならまだ間に合うわ。バッテリー貸しなさいよ。」
「…。」
桃子はまた唇を震わせて首を横に振った。
目にはまた涙を浮かべて、ミシルを抱きしめた。
「嫌だ…もう何も失いたくない。ミシルちゃんがいなくなるなんて考えたくない…。」
「大丈夫。桃子さん。私は壊れたりしません。」
「行くつもりなの?」
「はい。この学校を守ります。」
「悲しいのはあなただけじゃないわ。私だって、彼女を失うのは怖いわ。」
さきゅばすは腕を組んでそう語った。
「でも、私もミシルちゃんを信じてる。桃子さんも彼女を信じあげなさい。そしてそのバッテリーを彼女の命だと思ってしっかり握ってなさい。」
「…。」
桃子は言われた通りポケットの中の電池ほどの小さなバッテリーを握りしめた。
「わかった。失う前提でミシルちゃんを送るのはやめるよ。私も一緒に闘うから。」
「桃子さんこそ、ロボットの身より自分の身の心配をしなさい。」
「君もね。」
3人は結束力を高めた。
「橙さんはどこにいるの?」
掃除用具入れからとってきたモップを、ぎゅっと強く掴んでいる桃子は、辺りを警戒しながらさきゅばすに聞いた。
「体育館よ。もう授業に参加してないわ。体育館で適当に選んだ子を使って半身ロボット計画を実行してるみたい。私たちはそれのカモフラージュみたいなもんよ。あいつのために今も平和な学校を演じてる。」
「半身ロボット?」
桃子は首を傾げた。
「ロボットと不死身を掛け合わせた新しい生き物を作りたいんだって。まだリスクが沢山あるから、被験者に使われる子の命の保証はないわ。」
「そんな…きょうりんちゃん達も危ないんじゃない?」
「そうね。下手したらこのまま生贄ね。」
「早くみんなの意識も覚ましてあげないと。」
桃子はまたモップをキュッと握った。




