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不死身ちゃんとユリ世界。  作者: 愛犬元気。
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四話



「ありがとう。ミシルちゃんが来てくれて助かったよ。」


「ああ、うん…どういたしまして。」


「戻ろうか。授業始まるよ。」


「あ…。」


桃子はミシルの手首を掴むと教室に走った。

教室は2階だ。


2人で走り、桃子は息を切らしながら教室の前から中に入った。


すると、その手をつないだような2人に教室中の視線が集まった。



「桃子、どうしたの?髪がボサボサよ。」


恋人の宮桜が桃子に近寄る。


「図書室で本棚に潰されちゃって。彼女に助けてもらったんだ。」


「そうなの。ありがとう桃子を助けてくれて。」


「私は何も…。」


ミシルが謙遜けんそんすると、宮桜はミシルに上品に軽い会釈をした。


そのまま宮桜が彼女の腕に両手を絡めると、2人だけの会話を始めて奥の窓側の席に戻っていった。



「…。」


クラスは少しヒソヒソとしていたが、遠目で見ていたさきゅばすはニヤニヤが止まらない様子だった。



「ふふふ。うまくいったわね。どこまでして来たの?」


と、彼女の耳に唇が触れるくらい近づけた。


「な、何も…。」


「本当?ロボットなのに嘘が下手ね。」


「…。」


「クラス集のみんながあなたに嫉妬してる。このまま宮桜さんから彼女を奪うのよ!」


「そんなこと出来ないよ。私はロボットだから…。」


「駄目よ。これは私の野望でもあるんだから。ミシルちゃんには私の言う通り動いてもらうわ。」


「…。」


さきゅばすはそうニヤニヤと笑った。







「きゃーーー!!」


「!?」






その日の午後、2階の廊下で悲鳴が聞こえた。


ミシルもその悲鳴を聞く。

一番奥を見ると、女生徒が女生徒を襲って逃げていった。


「あららー?私のせいだと思った?」


後ろからいつの間にかさきゅばすがミシルに抱きつく。


「私みたいな流浪の吸血鬼の仕業ね。」


「血って美味しい?」


「そうねえ。力が湧くって感じ。血の味を覚えた人達がああやっていろんな子の血を吟味してるみたい。だから、ああ言うの防止するために作るべきなのよね。輸血タンク。」


「でも、そうしたら沢山の不死身の血が必要なんじゃない?」


「うふふ。そうね。でもちょっとずつ抜けば貧血程度で済むじゃない?別に死ぬんじゃないんだから、それにお金にもなるし、悪い事じゃないと思うわ。」


「お金…それって大丈夫なやつなの?」


「バレなきゃ犯罪って言わないのよ。法律にも触れないでしょ。でも、私は今の暮らしに満足してるし、金銭的な意味でね。だから、日常に刺激が欲しいのよ。」


「…。」


「いいのよ笑いなさいよ。にーって。」


と、戸惑いの表情を見せるミシルの口角に指をねじ込んで無理やり笑顔を作らせた。


「あはは。可愛い!」


と、彼女は悪戯にまた抱き着いた。



「さ、私も誰かを襲いに行こうかな。ねえねえ、どの子がいい?」


と、さきゅばすは休み時間に廊下に出ている生徒たちを物色し始めた。



「手伝ってね。ミシルちゃん。あの子可愛い。」


「…。」


さきゅばすが指をさす向こうには、ポニーテールがトレードマークの女の子がいた。


「ねえ、あの子どっちかな。見てみてよ。」


さきゅばすがミシルにお願いすると、ミシルは黙って彼女をロックオンした。

そして、ロボットとは違う体温の流れを確認すると、ワクワクしながら顔を覗いてくる彼女に言った。


「不死身の子。」


「本当?やったー!昨日お肌の調子が悪かったからもっとよくするために血が欲しいの。」


「そうなんだ…。」


「桃子さんの美味しい血を超えてこないかしら…。」


彼女の眼が爛々と光った。

獲物を狙う、かつていた肉食動物のライオンのように彼女に的を絞った。


「さ、一仕事してもらうわ。ミシルちゃん。」


さきゅばすはミシルの手を引っ張った。




彼女に一段と近づくと、さきゅばすは早歩きの足を急ブレーキ。


「私はどうすればいいの?」


「うふふ。いつものようにやってくれればいいよ。」


「…。」


彼女の猫のような大きな目と、相手を読み切ったような詐欺師みたいな笑みがミシルをNOとは言わせなかった。



「あ、あの…。」


早速、人気のない階段へ降りていく彼女を呼び止める。

華奢でリスのような女の子は何も知らずに振り返った。


「あ、足元にガムがついてます…。」


「え?」


「靴の先です。もっと屈んでみてください。」


「どこ?」


と、彼女が前にかがんだ時だった。



「んん!?」


突然何かが背中に乗ってきて、彼女の口を塞いだ。

ぬるい息が耳にかかると、ポニーテールの彼女の体は一瞬力が抜けた。


その時を狙い、さきゅばすは首元に思いっきり噛みついた。


「んんんんんーーー!!!?」


痛さに悶絶し、その馬のしっぽを何度も鞭のように揺らす。


ミシルは目をそらし、眉を八の字にして佇んでいた。



「きゃ!?」


ポニーテールの彼女の眼球が、後ろから両手で強く押し込まれた。


その痛みに悶絶している彼女を隙に、さきゅばすは階段から素早く逃げ去った。



「だ、大丈夫?」


ミシルはまるで、とんでもないところに居合わせた通行人のような態度でその場を乗り切った。






「あはは。うまくいった。」


教室で合流した彼女は満足そうに舌なめずりをしていた。


「すごく痛そうだったけど…。」


「でも死にはしないわ。でも、あの子の首の裏に違う穴があった。きっと他の吸血鬼が飲んだのね。やだわあ。お下がりで。そこまで美味しくなかったし。」


「泣いてたよ。あの子。」


「桃子さんの血には勝てなかったけどね。例えるなら、綺麗な月とすっぽん。月とすっぽんね。」


血を飲んだ後、いつもさきゅばすはテンションがハイになる。

何を言ってもべらべらとしゃべり続ける弾丸になる。


「…。」


「ミシルちゃんも飲みたかった?」


「そんなこと思った事ない。」


「私にとっても、あなたにとっても。桃子さんはいつか奪わないといけない存在なのよ。」


「奪うって…?」


「そのまんまの意味よ。」


と、機嫌のいい独裁者の女王様の如く怪しい笑みを浮かべた。


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