十六話
残り6日
「ねえねえ。誘えたの?」
朝からさきゅばすはミシルの髪の毛をくしでとかしていた。
「桃子さん、忙しいって…。」
「あらそうなの。じゃあ一度返して。」
「あ、あのね、その、もう一回掛け合ってみてもいいかな?」
「いいわよ。ふふふ。ミシルちゃんいやに積極的ね。どうしたの?」
と、ミシルの背後から急に抱きしめてくるさきゅばす。
彼女のその普通の行動ですらミシルの核の部分が激しく揺れ動く。
「そんなに桃子さんの水着が見たいの?スケベね。」
と、クスクス笑った。
「うう…。」
ミシルは頭を抱えた。
実を言うとまだあのチケットをきょうりんから取り返せないでいる。
さきゅばすが自分に怒ったことはないが、彼女を怒らせるのは絶対良くないことだ。
あの子からチケットを取り返すにはどうしたらいいんだろう。
-ミシル。-
「ももちゃん。」
肩にいるももちゃんが動き出す。
「悩みを聞いてくれる?ももちゃん。」
-ミシル。大好き。-
「私も。だから悩みを聞いて。」
ミシルは1人屋上へ上り、晴天の空の下でももちゃんと話すことにした。
-ミシル ミシル-
クマはアネルの声に機械音を混ぜたような声だ。
可愛らしい声だが、同時に切なくなる。
「ねえ。ももちゃん。チケットを取られたの。桃子さんに渡す予定のチケット。どうやったら取り返せると思う?」
-ミシル ミシル-
「きょうりんちゃんが返してくれない。どうしたらいいのかな?」
ラッキーベアはただ彼女の手のひらでミシルの名前を壊れたように連呼しているだけだった。
「あと6日…。」
ミシルの髪はゆらゆら風に揺れる。
その風に乗せてこのまま消えて無くなりたいと思う彼女だった。
「あ、ミシルちゃん。」
廊下にいると、桃子とばったり会った。
「そう言えば昨日何を言おうとしてたの?」
「…いえ…あの…。」
「?」
桃子が首をかしげた。
「なんでもないです。ごめんなさい。」
「あ。」
桃子は足早に桃子から去った。
「どうしよう。私にはどうにも…。」
と、その時だった。
-ミシル。-
「え?」
ももちゃんが初めて自ら動いた。
ミシルの肩を降りたと思うと、廊下を四足歩行で歩き出した。
それはまるで本物の獣のように、ミシルが手を伸ばした頃には女子学生の足を風のようにすり抜けてどこかに行ってしまった。
「ももちゃん…?」
ミシルは追いかける間も無く、手を引っ込めた。
残り5日
「あれ?ももちゃんは?」
朝、さきゅばすは沈みきったミシルに声をかけた。
「いなくなっちゃった。」
「何そんな可愛い顔して。おまじないしてあげる。」
と、落ち込んでいる彼女の唇にキスをした。
「ほら元気になった?」
「うん…。」
「大丈夫?」
さきゅばすはミシルの頭を撫でた。
「あのね、さきゅばすちゃん。」
「ん?なあに?」
「…ううん。」
「なによー。そんな顔して。ももちゃんいなくなったわけじゃないわ。お散歩してるだけ。」
「そっちじゃないけど。」
「え?」
「ううん。」
ミシルは首を横に振った。
廊下
「ねえー。ミシルちゃん。」
ガバッ!!
「!?」
ミシルの背中に誰かが抱きついてきた。
そしてそのままミシルは前に廊下に倒れた。
「う…。」
「私の可愛いミシルちゃん。」
声からしてきょうりん だという事は分かった。
「ねえねえ。ミシルちゃん。チケット返して欲しくない?」
きょうりんは体を起こした彼女の背中に抱きついた。
素通りする何人かはこちらを見ている。
「返してほしい…。」
「でしょ?じゃあ私と遊んで。」
「そうしたら返してくれる?」
「うん。遊ぼうよ。私と。お姉様にはもちろん内緒よ。」
「う、うん。」
「授業サボって私にしてほしい事があるの。」
「なに?」
「保健室に来て。」
と、彼女の腕を掴んで保健室に向かう。
「あら。」
すると、それを遠くから見ていた宮桜と桃子は心配そうに2人を見届けた。
「大丈夫かな。ミシルちゃん。」
「すごいアグレッシブな抱きつきだったわね。」
「あの子なにを考えているんだろう。」
と、桃子もそのきょうりんの滅茶苦茶な行動に眉をしかめた。
「もっと。そこそこ。気持ちいい…。」
保健室。
きょうりんの至福の声が聞こえる。
「…。」
ミシルは膝の上のきょうりんの耳に綿棒をこしょこしょさせて、彼女を喜ばせていた。
「これでチケット返してくれる?」
「もっと右。」
「…。」
「うふふ。ロボットはやっぱり手つきがいいわね。」
「…。」
「もういいわよ。」
両耳かき10分ずつやると、ようやく終わった。
ミシルが顔を上げようとした瞬間
「えい!!」
「きゃ!?」
ドサッ
きょうりんが体を起こした彼女を枕の方へ押し倒した。
「お姉様が私の血を飲んでくれないのはミシルちゃんのせいなんだよ。」
「…チケット…。」
「ねえ。反省してる?だから、お姉様の物は私の物なの。お姉様には私の血を飲む事だけ考えていればいいの。」
「…。」
「でも私見たいかも。ミシルちゃんの水着。」
彼女の首筋を撫でながらミシルの体を舐めまわすようような目つきで見る。
そしてきょうりんはクスッと笑った。
「寝ていい?なんか眠くなっちゃった。」
ドサッ
と、彼女は一気に体の力を抜いてミシルに覆いかぶさった。
「私のお尻触ってもチケットは無いからね。」
「どこにあるの?」
「言わない。言ったら私の着けたミシルちゃんの首輪が外れちゃう。」
と、ミシルの体に抱きついて目を瞑った。




