十一話
「宮桜見て。」
次の日の朝の教室。
登校してきた彼女に桃子は嬉しそうにバックを指差した。
「あら、それラッキーベア?ついに取れたの?」
「うん。昨日ミシルちゃんと取りに行ったんだ。」
「そうなの。」
「名前がもももちゃん。ミシルちゃんにつけてもらってね。」
「…。」
宮桜のスネた顔を見ると、桃子の上機嫌トークも止まった。
「嫌だな。ミシルちゃんはロボットだよ。」
「ロボットに恋する偏屈な子もいるわ。…わかってる。あなたは分け隔てなく仲良くできること。悪いだなんて思ってない。ミシルちゃんをロボットとして接してる事も分かっているけど…。」
「大丈夫?」
宮桜は頭を抱えた。
「ごめんなさい。束縛するつもりはないの。けど、あなたは誰にでも優しいから心配なの。」
「でも分かってくれないかな。ミシルちゃんは電源がキスなだけだから。彼女たまに調子が悪い時があって。それを見捨てることなんてできないし。」
「そんなロボット聞いた事ないわ。キスで電源が入るなんて…。」
「でも、彼女が電源落ちた時にポケットの説明書にそう書いてあったけど。」
「…。」
宮桜は何か考え込んでいた。
桃子はそれを心配そうに黙って見つめている。
「あなたが嫌気を感じることはもう言わない。けど、ミシルちゃんと関わるとこの先いけない気がするの。」
「いけない気って?」
「…ごめん根拠はないわ。私がどうにかしてるだけ。」
と、また下を向いた。
「ふふ。取れたんだね。おめでとう。」
さきゅばすはミシルの手の中の真新しいももちゃんを触った。
「ももちゃんは?」
「旧ももちゃんはこれ!」
と、さきゅばすはポケットからももちゃんを取り出した。そのももちゃんは綺麗に治っていた。
「これさきゅばすちゃんが治したの?」
「これは私のももちゃんにするわ。」
「でも。そうしたらももちゃんがかぶる。」
「ももちゃんは実は双子ちゃん。私たちは一心同体なの。ね?」
「ふたご?」
「まあ、影みたいなもんよ。よろしく。」
「うん。よろしく旧ももちゃん。」
ミシルは嬉しそうに笑った。
「今度は無くしたら駄目よミシルちゃん。」
「うん。手元に置いとくよ絶対。」
「今度はね、盗った奴すぐにわかるんだよ。」
「?」
「桃子さんは優しいから誤魔化していたけど、私はこのももちゃんとしてもミシルちゃんを守ることにしたわ。」
「何の話?」
「うふふ。私は優しくないのよ。」
と、1人でクスクスと笑っていた。
「いいなあ。ミシル。さきゅばすさんと同じものを持てて。」
休み時間、アネルは羨ましそうにミシルの手の中のラッキーベアを見ていた。
「やっぱり、さきゅばすさんはミシルが大好きなんだね。」
「でも、私の恋を応援してくれるって言ったの。けれどさきゅばすちゃんは私をどう見ているのか。ロボットだから不死身よりも甘えられるだけなのかもしれないけど。」
「ロボットは、このももちゃんと同じなのかもね。」
「え?」
「私たちは不死身にこうすることはできないけど、ぬいぐるみにならできるでしょ。」
「そっか…。」
と、大事に持っているももちゃんを悲しそうに見つめる。
「でもいい。こんな気持ちが芽生えただけでもうれしい。さきゅばすさんが拒絶しなかったことも嬉しい。それだけでもいいの。」
「私の事、憎く感じたりしない?」
「ううん。ミシルは私の大切なお友達。どんな結果になってもね。」
「アネル。大好き。」
「私もずっと。」
2人は見つめあって笑いあっていた。
「ねえ。きょうりん。昨日抜け駆けしたでしょ。」
その頃、屋上で桃子新親衛隊達が昨日のリボンの大きな女の子、きょうりんに詰め寄っていた。
「何の話?」
「分かってんのよ。昨日桃子さんに抜け駆けして会いに行ったでしょ。昨日見てた子がいたの。」
「しかも、抱き着いたらしいわね。」
「どうしてよ!!抜け駆けしないって約束でしょ!!」
「そんな約束建前に決まってるじゃない。」
きょうりんは7人に問い詰められながらも、自身の髪を人差し指でくるくるさせながら開き直っていた。
「建前って、あんたが勝手に作ったルールで動いてるだけじゃない!!」
「私は別に一人で利益を掴もうだなんて思ってないもん。逃げたフリして昨日の一部始終見てたの。皆のために逃げないでね。」
「どういう事よ。」
「皆のためにやっていること。ねえ、あのぬいぐるみまた盗んじゃおうかなって思ってるの。」
「ええ?」
驚く彼女たちにきょうりんは昨日の事洗いざらい話した。
「だから、あのラッキーベア。桃子さん今つけているんだけど、そのロボットちゃんと同じのつけてるの。憎くない?ロボットのくせに。」
「なによそれ。ロボットのくせに出しゃばってるって事?」
「許せない。」
「ロボットのくせに桃子さんに近づくなんて…。」
メンバーたちは更に憤っていた。
その中でも人一倍人懐っこい顔をしているきょうりんは、カリスマ的にリーダー力があった。
「じゃあ、皆でそいつ成敗しようよ。今の敵は私じゃなくてそのロボットでしょ。私なんて全然桃子さんに相手されてないし。」
その言葉に納得する7人。
「私たちの結束を深めるためにやるわよ。ぬいぐるみ破壊選手権。狙うは桃子さんのとその子のペアのクマを破壊する事。分かった?」
きょうりんはそう小悪魔に笑った。




