(十)意地っ張りな平民
遅い。
ジキルは置き時計を見た。深夜と言ってもさしつかえない時間帯に突入していた。
従兄弟同士のお喋りはそんなに盛り上がるものなのだろうか。あのクレオンとギデオン王子で。
(まず、ないな)
ギデオンはともかく、クレオンが嫌がるだろう。適当な口実をつけてさっさと退散するはずだ。それが出来ないというのは、よほど強く引きとめられているのか。何か別の厄介ごとが起きたのか――しかし、ジキルには関係のないことだった。
「どう思う?」
「あれくらいは当然さ。今まで受けてきた仕打ちを考えてごらんよ。命を救ってやったのにお礼どころか文句を言い、こっちの都合などお構いなしで勝手に婚約を結ばされ、貴族社会に引きずり込まれた。挙句、殺されかけたわけなんだから嫌味の一つや二つを言うくらいどうということでもない――」一通り語った後で、ノエルはジキルの顔を覗き込んだ「と、言えば満足かい?」
相変わらず性格の悪い幻覚だ。先ほどの自分の態度を正当化したいジキルの心情を容赦なく暴く。
ジキルはベッドの上で寝返りを打った。態度はどうであれ、歩み寄ろうとしたクレオンをジキルは突っぱねた。それはいつも内心非難している貴族と同じくらい冷たくて情のない行為ではないのか。
「悪いのはクレオンだ」
口にした言い訳は自分でもわかるくらい子供じみていた。
「その台詞も聞き飽きた」
「じゃあ聞くな」
「君の隣に置いてあるのに? 無茶を言わないでくれよ」
鞘に納められた魔剣ノエルは同じベッドの上――ジキルが手を伸ばせばすぐの位置にある。野宿を始めた頃からの癖だった。
「呼んでもいないのに出てくるな」
「そう、そのことなんだがね」ノエルはこともなげに告げた「なんか反応があるんだよ。魔導石の」
だからなんで大事なことを後回しにするのかこの魔剣は。ジキルは胡乱な眼差しを自称ノエルに向けた。
「ルルの?」
「いや、生体反応がないから魔剣だと思う」
「あっそう、じゃいいや。おやすみー」
「王太子の部屋からなんだよね」
ジキルは跳ね起きた。
「先に言えよ馬鹿っ!」
靴を履いて上着をはおる。身だしなみを気にする暇はなかった。悪びれもせず「君も結構無茶を言うよね」とほざく魔剣ノエルを引っ掴んで部屋を飛び出した。




