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真・恋姫†無双~絆創公~ 小劇場其ノ十四

小劇場其ノ十四


 さて。一方で場所は変わって、ここは鍛錬場から城内へと通じる道の途中。そこには小さな人集りが出来ていた。

 その中心には、地べたに胡座をかいてうなだれている男が一人。注意深く観察してみると、しきりにブツブツ呟く声や、“ハァ~”という、やけにはっきりした溜め息が漏れているのが判る。

 そしてその周りにいる人物は、男の扱いに困っており、特に彼の知人である男女二名ずつのそのうんざりした様子といったらなかった。


「おい、リンダ。いい加減機嫌直せよ~」

「いつまでもここに座り込んでいたら、他の方々の迷惑になりますよ!」

「いちいちあんなの気にしてたら、ますます年食ったように見えるってば~!」


「………………ハァ~」


「さっきからずっとこれだ…………」


 リンダと呼ばれた座り込んでいる男は、暗い表情でふてくされて、周りの声を一切遮断しているようだった。


 ついさっきまで、自信満々で鉄扇を操っていた優雅な印象からは程遠いその姿。半ばギャラリーと化していた周りの武将たちは、その様に違う意味で少し心配になっていた。


「おやおや。これは何とも形容しがたい……」

 星の言葉は嘆いているようではあるが、その表情はうっすらと笑っている。

 もとから見物する為に足を運んできたであろう星は、あまり落差のない反応であった。

 しかし、男の不甲斐なさを良しとしない人物もいた。思春に至っては、先程からこめかみに青筋を浮かべてギリギリと歯ぎしりをしていた。

「ええい、鬱陶しい!! 男が一度負けたぐらいで、ウジウジと!!」

「し、思春さん! 落ち着いてください!!」

 男目掛けて鈴音を振り下ろそうとする思春を、亞莎は必死に食い止めている。


-解るわ……貴方の気持ち。辛いでしょうに……-

 ただ何も言わずに、噛みしめるように頷いている紫苑。下手すれば、その瞳からホロリと何かが零れ落ちそうな雰囲気である。

 そんな母親の心情を理解しているのだろう。娘の璃々は、ほんの少し呆れたように紫苑を見上げている。

 ちなみに璃々について来た孫登たちは、これらの様子を退屈に感じたのだろう。各々好きなように遊んでいた。



「俺が“おじさん”なんて……。そんなに老けて見えるんですか…………?」

 いまだに呟きを繰り返すリンダ。璃々にリンダの事をおじさんと言うよう仕向けたのは一刀だったが、それはある意味自業自得とも言えるので、周りは全員打ち明けようとしなかった。

 しかし、打ち明けなければいつまでもこのままである。どうしたものかと悩んでいた所を、話を切りだしたのは上司のヤナギだった。


「お前の誇りは、そんなに容易に崩れるものなのか……?」


 口調同様に冷たい目つきは、鋭く射抜くようにリンダを見下ろしている。そんな上司をさほど気にも留めずに、リンダは鼻で笑う。

「ほっといてくださいよ。どうせ俺の気持ちなんか解る訳……」

 ウジウジした態度を崩さないリンダに、ヤナギは持っていた黒いコートを投げつけた。

「な、何するんですか……!?」

 狼狽えるリンダが発言しようとしたが、それよりも彼の胸ぐらを掴むヤナギの方が早かった。


「貴様は選ばれてこの任務に参加しているのだぞ! それがどれだけ光栄な事か理解しているのか!?」


 落ち着いた印象の彼からは珍しく、しかし生真面目な印象からすれば当たり前の発言に、その場の空気が凍り付く。

 周りで遊んでいた子ども達も、突然の大声に動きが止まった。


「我々は歴史の流れを守る為、何より皆様を護る為に派遣されたのだ! それを貴様はその流れを乱すとは……。それこそ恥ずべき事ではないのか!?」

「主任…………」

 少し涙目で怒鳴りつけるヤナギから、任務への冒涜をされた事に対する悔しさと憤りを感じ、リンダは言葉に詰まっている。



「鈴々は、リンダがうらやましいのだ!」



 いきなり聞こえてきた大声に全員の視線が集中する。

 誰が喋ったのかは全員理解できていた。そこには予想通り鈴々が、どこか力強く立っていた。

「おじさんって言われるのは、大人って見られていることなのだ。鈴々は……子供っぽいからうらやましいのだ……!」

 鈴々の言葉を聞いた中で、彼女を良く知る人間は驚いた。


 鈴々は、自分を子供扱いされる事を嫌う傾向がある。そんな彼女が、自分が子供っぽい事を、自分から認めた。

 しかも、そう話す鈴々には悔しそうな様子は微塵も感じられない。寧ろ、何か決意に満ちた瞳で男を見ている。


 そんな感想を抱かれている事など知らず、鈴々はそのままリンダの方へ向かう。

「だから。大人の男の人のリンダは、大人らしくするのが良いのだ! 皆が憧れるような、立派な大人になるのだ!」

「大人らしく、ですか…………」

 まるで鈴々の望みであるかのような言い方。

 だが、その力強い言葉はリンダを立ち直らせる効果はあったようだ。さっきまでの暗い表情は、もうリンダには浮かんではいない。

「……そう、ですね。俺は大人なんですから、しっかりしなきゃいけませんよね」

 顔つきが凛々しくなる。しかしながら、そこに他人を蔑むような気配は一切感じられない。掴みかかっていたヤナギもそれを察して、リンダの胸ぐらから手を離す。

「…………改心したか?」

「はい……」

 ヤナギに返答したリンダは、女性陣へと向き直る。

 それに対して少し身構えた一行。だが、彼女達が次に見たのは、深々と頭を下げるリンダの姿であった。

「此度の御無礼、大変申し訳ございませんでした。これからは誠心誠意、皆様の為に尽力する事を誓います」

 今までとは違う、本当に礼儀正しい口調に一同は拍子抜けする。そこに言葉を付け加えたのは、ヤナギであった。

「疑う必要はありませんよ。リンダがこの口調になると言う事は、本当に皆様に敬意を払っている証拠ですので……」

 眼鏡のズレを戻しながら、満足そうに微笑むヤナギを見て、一応は納得する。

 だが、リンダの実力は全員理解しているので、まだ油断はしていないのだろう。


「ああ。ところでリンダ……」

「何でしょう? 主任」

「改心したのなら、もうこれは必要ないな?」


 何がですかと聞き返す前に、ヤナギがスーツの内ポケットから出したものを見て、リンダは目を疑った。

「そ、それは……」

「そうだ。お前が調べ上げた情報を書き記した、愛用の手帳だ」

 話しながらヤナギは、もう片方の手に銀色のライターを握りしめている。

「さっきの戦闘中に、お前のコートから抜き取ったんだ……」

「や、止めてください……! それは俺の努力の結晶で……」

「他人をおちょくる努力の結晶など、私は認めん。これは即刻処分する」


-カチッ…………ボワッ!!-


「あーーーーーーーーっ!!」

 それは一瞬で紅蓮の炎に包まれた。

 材質的に燃えやすかったのか、手帳は十秒ほどで灰と化した。

 跡形もなくなった愛用品を見て、リンダは涙を流しながら、ガックリと崩れ落ちる。


「そ、そんな……結構苦労したのに…………」

「お前の能力は、違う場面で活かしてもらう。だからどの道必要ないんだ」



-主任……えげつないっすよ-


-流石にこれは、リンダっちに同情するしか…………-


-いや、しかし……これは自業自得と言えなくも……-


 上司の容赦ない制裁に、残る部下の三人も若干引いていた。




「どうしたの、皆……?」

 と、これまでの流れに参加していなかった北郷一刀の声が聞こえてきた。ヤナギとリンダ以外の全員が目をやると、一刀と、その隣には愛紗が立っている。

 場を代表して話し出したのは、アキラであった。

「あー、えーと、まあ……詳しいことは後で話しますが。とにかく色々ありまして……」

 この厄介な状況を説明するのは、やはり時間が必要だと判断して、アキラは言い澱んだ。

「で、北郷一刀さん。そちらはうまくいったんですか?」

 話題転換のために、アキラは一刀に話を振った。


 だが、一刀がそれを説明する必要はないだろう。


 仲良く並んでいる、一刀と愛紗。


 そして、二人を固く繋がれている、一刀の左手と、愛紗の右手。


 誰がどう見ても、二人の仲が深まったのだろうと判る。



「うん……まあ、こっちも色々あってね」

「…………」

 ほんの少し、照れ臭そうにする二人。でも、その手を解こうとはしていない。


 そんな二人を眺めながら、アキラは心の中で溜め息を吐く。


-まあ……とりあえずは、どちらも丸く収まった……のか?-


 その視線は、いまだにむせび泣いている一人の男に注がれている。











 しかし、彼の不運はこれで終わりではなかった。


 彼は今、正座をしながら、ある人物と向かい合っている。

 しかも、正座している場所は玉座の前。相手も同じく玉座の前。

 おまけに、大勢のギャラリーに遠くから見られている。玉座の前という場所柄、視線が集中しやすい事もあるのだろう。


 彼は今、説教の真っ最中であった。



 そして、彼に説教しているのは。



 一刀の母親、北郷泉美である。


 普段とは違う険しい顔で、男を睨みつけている。


「……皆に失礼な事を言ったんですね?」

「…………ハイ」

「しかも、皆を怒らせながら試合をするという、卑劣な事をしたんですね?」

「………………ハイ」

「それが、どれほどの女の子の心を傷付けたのか……解っているんですか?」

「……………………ハイ」


 穏やかな口調ではあるが、そこには確かに怒気を込めていた。

 男はそれにあてられて、只々精神的苦痛にうなだれるだけであった。


 状況を説明すると。

 泉美が今日の仕事、邑の子ども達の先生という仕事を終えて城へと帰ってきた。

 すると、新しい来客がやってきた事を知らされた。ここまでは、まだ歓迎ムードの漂う穏やかな空気だった。

 しかし、リンダの起こした騒動を知った途端、泉美の纏うオーラは説教モードへと変貌した。


 一刀曰く、母親が他人を説教することは珍しくないと話していた。しかし、今回は説教の熱のこもり方が違うとも話していた。


 それも当然であろう。なにしろ……


「いいですか。愛紗ちゃん達は、私の大事な娘であり、私達北郷家の大事な家族なんです。家族を傷付けられて、黙っている親がいると思いますか?」


 …………という訳である。



 日もとっぷり暮れた時刻、お説教はこれからますますヒートアップする事だろう。


 ギャラリーとなっている中で、家族と言われた女性陣は、親身になって怒ってくれている泉美に心の中でエールを贈っている。

 そして、残る北郷家の面々は……

「お母さんのあんな顔……久しぶりに見た……」

 一刀の隣で、彼の腕にしがみついてビクビクしている一刀の妹、佳乃。

「ああなると、泉美は長いからな……」

 妻の様子を、体の前で腕を組んで眺めている夫、燎一。


「北郷一刀さん。これって、あとどれぐらいで終わるんすかね? 流石にリンダが可哀相っすよ」

 佳乃とは逆の隣で、一刀にヒソヒソ話しかけるアキラ。その表情は、いたたまれないと言うように、説教をされている男を眺めている。

「んー……説教はあと一時間ぐらいで終わると思うよ。説教“は”」

「……まだ、何かあるんすか?」

「説教の次は……爺ちゃんのターンだな」


 一刀はそう言いながら、現在は外で素振りを繰り返しているであろう、自分の祖父の姿を思い浮かべている。


-…………ご愁傷様-


 べそをかきながら説教を受けている男に、一刀はそう呟くしかなかった。







-続く-

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