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真・恋姫†無双~絆創公~ 小劇場其ノ十三

小劇場其ノ十三


「……………………愛紗」


 鈴々の後ろ姿を見送った一刀は、改めて愛紗に向き直る。やはり先程と変わらなく、一刀の顔を見ようとはしない。


 一刀は思う。


 普段の彼女は、自分が仕事を怠けているのを叱責したり、女性に対してだらしなくしている自分に嫉妬したり。


 でも、強く感じている。

 自分と楽しそうに話してくれるその笑顔は、他の誰にも負けないものだと。

 と。そこまで思い、怒ったり妬いたりする彼女も可愛いかな、と幾分不謹慎な考えが一刀の頭をよぎる。


 しかし、今の目の前の彼女はどうだ。

 いくらか呼びかけても、目も合わせてくれない。

 自分の声は届いているのだろうけど、肝心のこちらの意思が伝わらない。

 無視している訳ではないのだろうけど、彼女の意思が読み取れない。

 あまり経験したことのない反応に、どうしたものかと、一刀は深く息を吐いて頬を掻く。


 いつまでもじっとしていることに耐えきれない。


 業を煮やした一刀が、愛紗との距離を埋めるために、文字通り一歩踏みだした。


「来ないでください!!」


「……ッ!?」


 あからさまな拒絶の言葉。


 踏み出したまま、一刀は硬直する。

 自分の全てを否定されたような感覚に支配され、息も出来なくなっている。


 停止した意識が覚醒し、短く吐いた息で呼吸を再開した一刀。少ない酸素を身体中に必死に巡らせるように、心臓がうるさく胸の中から自分を叩いている。


 嫌われてしまったのだろうか…………。何故……………?


 呼吸とは無関係に襲ってくる息苦しさに、一刀も愛紗から目を背けて、その視線を彼女の足下に落とす。拒絶された理由を必死に考えてみるが、思い当たる節があり過ぎて明確に定まらない。

 しかし、一刀は思い直した。普段の自分の情けない姿を何度も見ていながらも、目の前の少女はそれに愛想を尽かすことなく、一途に自分を愛してくれている。

 無論、それは愛紗に限ったことではない。各々反応や態度に差は生じる、というより照れ隠しの仕打ちが酷かったりするのだが。

 しかし、それでも一刀に対して向けられる想いは嘘ではないと、一刀は信じている。

 今更ながらの、自分の立ち位置の凄さに恐ろしくなり、僅かに身震いした。



 と、視線の先。愛紗の足下に軽く意識を持っていくと、何かが落ちるのを見た。



 ◇◇◇



 ああ、またやってしまった……。


 ご主人様に、八つ当たりをした……。


 ご主人様は悪くないのに……。


 私を、労おうとしていたのに……。


 どうして私は、こうも素直になれないのだろう……。


 ご主人様に……嫌われてしまっただろうか。


 当然だ。こうやって訳もなく当たり散らす、こんな可愛げのない女など、愛想尽かされて……。


 私なんかより桃香さまみたいな、誰が見ても可愛らしいと思える女性が、ご主人様のお傍には相応しいのだ。


 そう……私なんか…………。



 -ポタッ…………!-



 私はその時、自分の視界が滲んでいるのを初めて理解した。


 それだけではない。

 瞳から頬へとゆっくり伝う、それが地に落ちるのを認識した。


 いけない。ご主人様に悟られてはいけない……。


 私は急いで、袖で目を擦った。

 でも、駄目だった。ぼやけた視界が元に戻るのは一瞬だけで、すぐにまたはっきりしなくなる。


 ああ、やっぱり駄目だ。


 私には……ご主人様が、必要なんだ。


 そんなこと、分かりきっていたことなのに。

 それだけは、はっきりしていたのに……。


 意識してしまえば、溢れ出す想いは止まる事なく流れ出し……。

 いくら拭っても、いくら止まれと思っても。その願いとは裏腹に、ズキズキと体の内を締め付けるように。

 あの人への思慕が私を容赦なく痛めつけて。




「………………愛紗」




 不意に私の耳朶を震わせた、愛しい声。やけに近く感じる。


 いや、本当に近いんだ。


 ふわり。と、穏やかに訪れた温もり。

 気が付くと、私はご主人様に抱き締められていた。自分の目の前に来ていたことさえ、私は気付かないほどに考え込んでいたのか。

 その心根を表すように、本当に包み込むような優しさ。

 私は一瞬、それに酔いそうになったが、すぐに意識を引き戻してご主人様から離れようとした。

 私のこんな情けない姿など、見せてはいけな…………


「ごめんな、愛紗……」

「……ご主人様?」


「俺のせいで……君に、嫌な思いをさせちゃって……」

「……ッ!?」

「愛紗が、酷い事言われてさ。俺、愛紗に何も出来なかった……。だから……ごめん……」

「ご主人、様…………!!」



 気付いていた。


 私が、あの男に勝てなかった事を悔いていた事を。


 私が、自身の矜持のせいで、恥ずかしく思い顔を合わせられなくなっている事を。


「愛紗……。俺は、君の辛そうな顔は、あまり見たくないんだ。だからさ……何か悩んでたり、不安があるんだったら、俺に話してくれ」

「ご主人様……」

「俺は強くないし、賢くもないけどさ。でも、愛紗の話を聞く事は出来るからさ……」


 私の髪を、梳くようにゆっくり撫でるその手は、凄く温かい…………。



 ああ、やっぱり駄目だ。


 この方には、適わない。


 ご主人様…………北郷一刀様は、すぐに私の心に入り込んでしまう。


 これでは……貴方に、甘えきってしまうではないか。


 こんな事では、私を姉と慕う鈴々に示しがつかないじゃないか……。


 鈴々は……頑張って、耐えていたのに……。


 これでは……これじゃ…………。


「ご主人様……申し、訳…………ございません……」


 私は泣きじゃくっていた。

 もう、溢れ出す感情を抑えることもしなくなっていた。


「お……お見苦しい姿を……お見せして……し、しまって」

「愛紗。君は頑張っていたよ……何も恥じることはないさ」


 抱き締められていて見えない。でも、その声から優しく笑っているのだろうと判る。


「わ、私……もっと強く、なりますから……。貴方を、お護りする為に……」

「愛紗は十分強いよ。寧ろ、俺の方が強くならなきゃ……」

「いえ……強く、なりますから……」



 貴方の御命を護る為だけではありません。


 貴方の、その御心を護る為に。


 慈悲深く、お優しいその心が。


 どうしようもなくいたたまれない事態に、陥ってしまう前に。


 戦乱の最中、我々の心を幾度も支え、救い出してくれたその御心が。


 壊れてしまわないように。



「……じゃあ、愛紗。俺と約束してくれ」

「……何でしょうか」


「俺の傍に、ずっと居てくれるかい……。俺を、見失わないように、しっかり見ていてほしい……」


 ご主人様……。


 もとより、私は貴方以外の殿方に、心奪われたり致しませんよ……。


「はい……約束致します……」

「ありがとう……」


 涙が少し落ち着いた私は、すっかりご主人様に身を委ねていた。


 少しは……甘えてみても、罰は当たらないだろう。


 そう考えながら、私はやっと自分の両手を、ご主人様の背中に回した。







-続く-


 真・恋姫†無双~絆創公~ 小劇場其ノ十三

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