第二十七話 【凝った挑戦状】
第二十七話
朝早く、何名かが意味不明の襲撃を受けたとの事で、三国合同軍議が開かれた。
昨夜の宴会と同じように、円卓を囲んでほぼ同じメンバーが集結した。
欠員は、急遽出た病人の手当てで出張している華佗である。彼には、この軍議での決定事項を後でアキラが伝令する事になっている。
欠員が華佗一人だけ。つまり、客人である北郷一家の四名も参加しているのだ。
普通なら参加はしないのだが、未来からの人間の襲撃という状況が状況ゆえに何か参考意見が出てくるかもしれない、との事で顔を出しているのだ。
ちなみに、朝早くの緊急で開かれた軍議であるので、ちょっとした朝食会も兼ねている。
メニューは一刀の母親の泉美の提案で、会話しながら食事するのでなるべく散らからないようにと、サンドイッチと飲み物を紅茶かホットミルクで、となっている。
余談であるが、おかわりを沢山作らなければいけないという建前と、天の国の料理を覚えて少しでもリードしたい本音で、厨房が再び戦場と化したのは記しておく。
現在、当事者でもあるヤナギとアキラの二人だけがその場に立ち、状況を説明している。
「……結果として九頭竜は逃げ去りましたが」
「警戒は一層厳重にしなきゃいけないっすねー……」
二人の報告を真面目に聞いている者と、食べ物に夢中になって話半分になっている者、真面目に聞いているようで実のところ早く終わって欲しいと願っている者と、色々な様子を見せている。
それを察しているのだろう、話すスーツの男二人はやり辛そうな雰囲気になっている。
「でも……。皆、無事で良かったです…………」
北郷一刀の妹、佳乃は少し泣きそうな顔で、しかしながらほっとした様子であった。
「しかし……。敵に闘志を向けるとは、お義父さんらしいと言いますか…………」
溜め息混じりで、北郷一刀の父親、燎一は耕作を心配そうに見ている。
「ひいお爺ちゃんは格好いいですねー」
「ねーっ!」
北郷一刀の母親、泉美の事を大変気に入ったのだろうか。一刀と蓮華の娘、孫登は泉美の膝の上に座り、ニコニコ笑っている。
そんな孫登を、泉美も笑いながら可愛がっている。
「……………………」
その二人の様子を見て、説明していたアキラは和やかムードの空気に感染されていた。今の彼の周りには、ホワホワと花が咲いていた。
「アキラ……。顔が緩んでいるぞ……」
部下の浮ついた顔を、肘で小突きながら制した。
「ハッ!? すいません……と言いたいんですが、流石にあれは和むしかないと…………」
「何だ、和むしかないとは? そんなだから……」
と、遊んでいる二人の様子をヤナギは何気なく見てしまう。
「あらあら、孫登ちゃん。ちょっとじっとしててね……」
「ハーイ」
手元にあるお手ふきで、少し汚れた孫登の口元を拭いている泉美。
「……………………」
ヤナギの動きが完全に止まってしまった。
アキラと同じように、若干顔が緩んでしまっている。
「ね? 微笑ましいでしょ?」
「ゴ、ゴホンッ!! ま、まあ、それはそれとしてだ……。アキラ、あれを皆さんに……」
和んでしまう事を否定していない発言をしていたが、顔を赤らめて咳払いをすると部下に行動を促した。
「あ、そうだった……。えーと……」
男二人が話している最中、北郷一刀は自分の家族が座っている方を、ただじっと眺めていた。
-……本当に。みんなここに来たんだな-
一夜の夢ではなく、今目の前に自分の家族がいる……
その事実を実感していた一刀は、熱いものがこみ上げていた。
「どしたんすか? ぼーっとして」
アキラは、隣に座っていた一刀に小声で問いかける。
「あ、いや。何でもないよ。それよりも、何か見つけたの?」
「あ……えーと、九頭竜が立ち去った後にですね、こんな物が廊下の柱に刺さっていまして…………」
そう言って出したのは、まるで警察の証拠品のようにビニール袋に入った、トランプのカードを貫通した短剣を出した。
それに見覚えがある一刀が、いち早く反応を示した。
「これって、さっき二人が使っていた……」
「はい、全く同じヤツなんすよ」
「全く同じ……?」
「実は九頭竜の襲撃の時に、このトランプのカードを置きっぱなしにしていたんです。で、この短剣を見つけた時に確認しに行ったら、全部無くなっていたんです……」
「盗まれた、って事?」
「そういう事でしょうね……。しかし、アイツもなかなか凝った事をしますね……」
そう言いながら袋に入った短剣とカードを眺めていると、その発言に華琳が興味を示した。
「どういう事?」
「ああ、この短剣を見て下さい。柄の所の装飾に龍が使われていて、しかも全部で九体います。つまり、この短剣は“九頭竜”を意味しています……」
「なるほど。そしてこの紙は?」
「これは僕たちの世界の遊具です。札遊びに使うもので、これはその内の一枚なんです。通称“スペードのエース”って言われています。スペードはこの黒い印の名前で、エースは数字の“一”を意味しています。ホラ、紙の中心に大きく印が一つ描かれているでしょ?」
「で、それがどう関係あるのかしら?」
「このスペードは剣の形を描いていると言われています。つまり、“剣”が“一つ”の紙が貫かれている……言いかえれば、“一つ”の“刀”が貫かれている……」
「ッ!!」
「はい、そうなんです。この紙は北郷“一刀”さんを意味しているんです。おまけに、この印には“死”の意味があるとも言われていますから、それも含めての挑戦状なんでしょうね……」
半ば呆れたように挑戦状を眺めるアキラに、今度は冥琳が口を開いた。
「しかし、その数枚の紙をいつ盗んだのだ? 現れたのはその男だけなのだろう?」
「それなんですよねー、一体いつ盗っていったのか…………」
「実行犯がいるとしたら、どうでしょうか?」
口を挟んできたのは、ヤナギだった。
「どういう事っすか? 主任」
「こういう凝った演出を、九頭竜が考えられると思うか?」
「いや、出来ないと思います……」
あっさりと引き下がった九頭竜の姿から、アキラの頭に思い浮かんだイメージは“違う”と訴えていた。
「作戦参謀として別の人間……と表現するのが正しいかは、まだ分からないが……。別に動いていた奴がいるなら、出来なくもないだろう」
顎に手を当てながら発言するヤナギに、また冥琳が口を開く。
「だとすると、その数枚の紙だけを盗むためだけに、別に侵入したという事か?」
「うーん、それだとますます納得いかないんすよねー……。さっき徹底的に確認して、侵入者とかはもういないんですけど……。もう、おかしい事だらけなんすよねー」
流石にアキラも悔しいのだろう、少し強く後頭部を掻いている。
「アーーー!! 何もせんと尻尾まいて逃げよって……ホンマ腹立つわッ!!」
いきなり響いた大声に、全員の視線が集中する。
椅子の上で器用に片膝を上げて、行儀の悪い座り方をしている霞がいた。
かなりイライラしながら、荒々しく次々とサンドイッチを口に運んでいる。
「何や姐さん、えらい荒れとるなー……」
「仕方ないのー、戦おうとしてたのに逃げられちゃったんだし……」
腫れ物に触れるように、少し隣の荒れている女性から離れて話す真桜と沙和。
「一刀のお母はーん! おかわりーーー!!」
そんな二人の様子など気にも留めずに、霞は空になった皿を掲げている。
「あらあら、じゃあ用意しますからね。ごめんなさいね、孫登ちゃん。お婆ちゃんちょっと厨に行ってきますから……」
「ハーイ!」
膝に座っていた孫登は元気よく返事をして、泉美から離れた。
席を立った泉美を確認すると、凪も席を立った。
「泉美様! 我々が護衛に就きます。沙和、真桜、行くぞ!」
「ハイハーイ」
「へーい……」
凪に続き、二つ返事の沙和と少しダルそうな真桜が席を立った。
「……僕たちのいる意味って何なんすかねー」
「何だ? いきなり」
「冷静に見れば、僕らよりも武将の皆さんの方が強いんすよね……」
「まあ、そうだな」
「おまけに、女性を護衛する時には、男性の僕らじゃ入れない場所があるじゃないですか」
「まあ、それは……」
「この際、人員投入しますか?」
「……管理局からか? 手の空いている女性がいないかもしれないだろ?」
「一応、調べてみますよ…………ん?」
ヒソヒソ話していた二人は、大広間から出ていった泉美たち四人が、少し駆け足で戻ってきたのを確認した。
四人の表情が幾分焦っているのも確認できた。
「如何なさいました、皆さん?」
様子がおかしい事を察して問いかけたヤナギに、泉美が応える。
「ヤナギさん、廊下の柱にこれが……」
表情を曇らせた泉美が差し出した物は、トランプのカード。スペードのジャックだった。
驚愕で震えているヤナギがカードを裏返してみると、今度は息をのんだ。
そこには、荒々しく墨文字で“張遼文遠”と書かれていた。
-続く-




