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第十九話 【恋い慕う故に】

第十九話


「いや、何で驚くんですか?」

 一斉に驚愕の表情を向けられて、発言者のアキラはその迫力に一歩引いた。

 彼自身も、そんな反応をされると思わなかったのだろう。キョロキョロと皆の顔を見渡した。

 その様子をみたヤナギは溜め息を吐いた。

「お前なぁ、そりゃ前置きもなくいきなりそんな話をされたら、誰だって驚くだろうが」

「いや、たぶんそういう理由じゃないと思います……」

 上司の呆れ顔の助言を、少し苦笑して否定する。

「じゃあ、何だ?」

「十中八九、しばらくの間北郷一刀さんと愛し合えないのが不服なんだと思います……」

「何をバカなことを言ってる、そんなワケ……」

 と、こちらも否定しようとしたが、途中何気なく女性達の顔を見てみた。ほとんどがサッと目を逸らしたり、真っ赤な顔をして俯いたりと、ばつが悪そうな雰囲気になっていた。

「……スマン、お前が正しいようだな」

 片手を前に立てる軽い謝罪の仕草をして、部下に発言を続けるよう促した。

「ま、皆さんの気持ちは分からなくもないですがね……」

 こめかみを人差し指で掻きながら、ひとまずは女性達の気持ちを汲んだ。

「でも、考えてみて下さいよ。敵は予想外の襲撃をする恐れがあるんです。そんな最中に襲われたら恥ずかしいですし、何より興醒めでしょ? 僕らが護衛に就くって方法もありますけど、それこそ興醒めじゃないですか」

 矢継ぎ早に話し続けた言葉に、ほとんどが“ごもっともです”と言うように顔を伏せた。

「っていうか、護衛の兵士が城内にいたとはいえ、あの戦乱の時期に今までよく無事でしたね。そっちが驚きですよ」

 一人で話す男に対して、女性達は何か言い返したかったが、それどころではない。

 意中の男性の大事な客人である、彼の家族の前で受けてしまった、思わぬ辱めに耐えきれないのだ。


 しかし、ここで更に、思わぬ言葉が飛び出した。


 言葉の主は一刀の母親、泉美であった。


「仕方ないですよね? 愛し合う男女ですもの。そうなるのは自然な事ですよ」


「!!!?」


 唐突に響き渡るその言葉が耳に届いた瞬間、女性陣全員はその意味を瞬時に解読した。


 今の口ぶりだと、スーツの男が語った内容を、母親はとっくに知っている事になる。

 と、仮定した上で、これまでの記憶を数人が呼び起こしていた。


 スーツの男二人は、極秘の任務が北郷一家に知られ、“一刀がどうしているか”などを含む“事情を説明した”……


 そして、先程母親が話していた“息子を心から愛してくれてありがとう”……

 

 -全部話したのか!?-

 視線と表情で訴えかけた、北郷一刀の想い人達。

 -あれ、いけませんでしたか?-

 表情だけなのに、何故か棒読みの返しが聞こえてくるとぼけた男。

 -ホントにバカか……-

 その無言のやり取りを眺めて、頭を抱えて俯き、嘆くもう一人の男。

 女性達が改めて北郷一家の顔を伺うと、母親以外の三人が居心地の悪そうな雰囲気になっていた。

 それで疑問が確信に変わった。

 全員知っている。最悪な話、一刀にしてきた、ひどい(酷い・非道い)事も。


 ああ、もう駄目だ。御家族の皆様は何もかも知っているんだ……


 今度は女性達が頭を抱える番になった。


「大丈夫ですよ、私達は気にしていませんから」


「!!!?」

 救いの声とも呼べる泉美の言葉に、全員が顔を上げた。

「皆さんが意地悪をしてしまっても、それでもカズ君は皆さんの事を、今も変わらず愛してくれているんでしょう? それって、皆さんを信じているって事ですよね。なら、家族である私達も、皆さんの事を信じますから……!」

 女性達の苦悩している内容を察したのか、言い終わって微笑む母親に続くように、残る家族が全員、女性達に対してしっかりと頷いた。


 -ああ。あの人を好きになって、本当に良かった……-


 家族のその様子を見て、女性達は安心すると同時に、身体がじんわり暖かくなるのを感じた。

 

「それに、好きになった人に意地悪したくなるのは、当たり前の事ですから。私は可愛いと思いますよ?」

 おおよそ可愛くないと言えるレベルの(色んな意味での)悪戯を一刀自身は受けているのだが、それは皆を気遣って言っているのか、知らずして言っているのか、解らなかった。

 一つ解った事は、一刀の器の大きさはおそらく母親譲りだろう、という事だった。


「良かったっすねー、ご家族の皆さんも心が広くて。ああ、ちなみに営みに関しての細かな部分は話していませんからね。そんな最悪な事する訳ないでしょうに」

 今更ながらの、意味不明なフォローに、女性達全員が男に軽い殺意を向けた。

「それと、僕ら何も“禁止”とは言っていませんからね? あくまで“なるべく控えて”との事ですから……」


 その言葉を聞いて、女性達は幾分華やかな顔になる。


「まー、普通に考えれば愛する男性の命か、自分の欲求か。大事なのはどちらか分かるハズでしょうけど……」

 しかしあっさりと希望を突き落として、ニヤニヤと皆を眺める男。

 確実に、先程よりも遥かに大きい殺意が彼にのし掛かる。

 もう、男が正論を言っているかどうかなど、関係無くなっている。己の抱えている欲求不満を弄られる苦痛の方が、どうやら最優先されているようだ。

「あと揚げ足を取って、“夜”じゃなく“朝や昼”なら大丈夫だろう、とか思わないように」


 -ドキッ!!-


「ハーイ、体をビクッとさせなーい! これから要注意人物になりますよー!」

「お前はどうしたいんだ……?」

「遊びたいんです!」

「素直だなっ!?」

 部下の爽やかな即答に、上司も勢いよくツッコミを入れる。

「重要人物である皆さんを、あまり虐めるな!!」

「ハイハイ、すいません……あ、ちなみにこの件に関しては、北郷一刀さんは快諾してくれましたよ」


「!!!!!?」


「うん、一番大きい反応ありがとうございます。その反応は予想していました。僕も最初は驚きましたし。てっきりだだをこねるかと思ってましたもん。でもね、こう言っていたんですよ……」


 -今回は、俺のせいで皆の命も狙われてしまうんだから……。皆に、これ以上迷惑はかけられないよ-


「……だそうですよ。皆さん以上に、北郷一刀さんの愛情が、深く大きい事が、その一言で思い知らされましたよ」

「………………」

 

「みんなー、お待たせー」


 室内に響き渡る声に、皆一斉に振り向く。


 そこには一同の視線を受けて照れくさそうにしている、後頭部を掻きながら広間へと入ってきた一刀がいる。


「ご主人様っ!! 身体は大丈夫なの!?」

「うん、もう平気だよ」

「後で春蘭には、きつく言っておくわ」

「いや、それはいいよ。もう俺は平気なんだし」

「か、一刀っ! お母様に教わって作った料理があるんだけど……!」

「そう言われてみれば……何だか懐かしい香りがするなぁ……」


「よーしっ! 皆さん勢揃いということで、宴会を始めましょう!!」


 円卓の上の料理が、まっさらな全員の取り皿を誘うように、白い湯気をユラユラと漂わせていた。







-続く-

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