09:『皆さんは一生会いたくない奴に再会したらどうしますか?』
「はい、お茶」
「ど、とうも……」
どうも、石上直也です。
現在、かーなーり、ヤバイ状況ですね。
ソファに座り、目の前には佐渡生徒会長、そして彼女が煎れてくれたお茶がテーブルの上にあります。
どうする?
お茶を飲んですぐさま帰るか?
いや、この場合お茶を飲むのはマズイ。
一口でも飲めば、相手の話に耳を貸すことを意味する。
それではダメだ。
……そもそも、敵が煎れたお茶、しかもあの会長のことだ……きっとなんらかの罠があるに違いない。
ここは、マイルドな断り文句を言うしか……
「あ、僕……早く帰って本を読むので…さよなら」
「まあまあ」
立ち上がった僕の肩を掴み、強引に座らせる会長。
くっ、……その細い二の腕のどこから…そんな力が!!
「あ、あの…ホントに帰りたいんです」
「ちょっとは話、聞きなさいよ」
嫌すぎる……。
どうせ下僕とかの話なんだろう?
嫌すぎる……。
「話聞いたら、帰らせてくれますか?」
「もちろん」
胡散臭ぇ……。
「聞くだけですからね」
「えぇ、いいわよ」
僕の返答を聞くや否や、佐渡会長は一方的に話し始めた。
「貴方が盗み聞きした通り、貴方を私の下僕として欲しい」
「さいですか」
「その理由は、貴方の兄である石上直樹の情報を私に提供するため。私の傍に貴方を置いておいた方が、何かと便利だから」
「あ、そういうことですか」
なるほどなるほど。
敵を堕とすにはまず敵を知れ、ということですね。
「つまり僕に、スパイになれと?」
「貴方、スパイごっこ大好きでしょ?」
「いや、あれは実況と言ってスパイごっこでは……」
「なんでもいいわ。協力、してくれるわよね?」
「……パワハラはよくないですよ」
「別に権力を振りかざそうなんて考えてないわ。あくまで、貴方の自主性を尊重してあげる」
「家族内でそういうのはちょっと……。気まずいじゃないですか」
「そうよね。でもね、私には石上直樹の情報が必要なの」
「想い人だから?」
「は?」
佐渡会長は僕の言葉に目を丸くした。
え、違うの?
佐渡会長は暫く考えた後、突然笑いだした。
「ぷっ、あははは! ちょ、ちょっと…笑い殺す気?!」
「え……?」
今度は僕が目を丸くした。
えーと…どゆこと?
「まあ、貴方の今までの経験を踏まえると、確かにそう発想してもおかしくないわね。でも、私は別に石上直樹をどうも思ってない」
「じゃあ、一体なんのために?」
「今は言えない。んーと、そうねぇ。私の下僕になってくれたら、教えてあげる」
「なら結構です。元より、僕は貴方の下僕になんてなるつもりはありません」
「ふーん。でも、嫌とは言わせないわ。これを見てちょうだい」
「権力は振りかざさないんじゃなかったんですか?」
「知ってるでしょ? 私、気まぐれなの」
さいですか……。
そう言って、佐渡会長は一枚の写真を僕に見せた。
これは……
「貴方の元カノ、でしょ?」
「そうですが…それが何か?」
「この娘、この学校に明日転校してくるみたいなの。もしオーケーしてくれたら、貴方とは同じクラスにならないように配慮してあげる」
「別にどうでもいいです」
「あら、元カノと会うのは気まずいと思ったのに意外と反応薄いわね」
「付き合ってたのはほんの一週間、しかも互いに無関心だったのに、どうして気まずくなるんですか?」
「……貴方達、付き合ってたのよね?」
「表面上は」
「表面上?」
「貴女なら、分かると思いますけどね。なぜ、彼女が僕と付き合ったのか」
「……ひょっとして、直樹?」
「………」
僕は、無言で立ち上がった。
もう話し合う意味はない。
帰ったら妹小説を読もう。
そして明日、また実況しよう。
だから……
「佐渡会長、さようなら」
「……また、明日」
佐渡会長は今度は止めなかった。
当然と言えば、当然だろう。
脅し文句が通用しなかったのだから。
また明日、ということは、今度は別のネタで攻めてくるのだろう。
僕の過去を調べ、自分のいいように利用するために。
「あ、直也くん!」
……え?
「直也くん、久しぶり! 元気してた?」
なんで…
「あれ? 直也くん、どうしたの?」
なんでお前が……
明日、転校してくるんじゃなかったのか?!
「もう、返事くらいしなよ! せっかく“元カノ”が心配してるってのに……」
僕の中学時代の元カノが、目の前にいた。
【新キャラ、無し】