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この水に血水症菌がいるわ。


ハートリー男爵領から運んでいると言ったわよね。

ノエルの領地。

奴隷のオークション会場で聞こえた会話を思い出す。

ハートリーの夫人がいい奴隷を落札したと言っていた。医師のもとで働いていた奴隷だと。

そのあたりが怪しい。

もしかしてハートリー男爵家はグラント王子とつながっている?


オーロラは自分の中に入って来た血水症菌を即殺し、ウォルターに向き直ると、耳に最大限口を近づけた。


「この水に血水症菌がいます」


「なっ!」


「ハートリー男爵のところから仕入れてはなりません。別のルートを探してください」


「わ、わかった」


もしかしたらノエルはグラント王子とグル?


ウォルターが補佐官たちに指示している間にオーロラはひとりずつ手を握っていった。


「クティ。力を貸して」


「僕がんばるよ」


クティがポンと現れた。


手を握ると慎重に血水症菌を探し殺していく。

こういう菌は消化管に集中しているから楽なのだ。ある意味そこを集中的に見ればいい。

よし、ひとり完了。


「ウォルター殿下。この方を別室に。もう除菌できました。このままここにいるとまた他の人の血水症菌をもらってしまいます」


「わ、わかった」


そうしてひとり、ふたりと順に処理していった。

そうしているとノエルが入って来た。


どうやら別のテントを回っていたらしい。


「きゃー」


ノエルが叫ぶ。


「く、黒魔術よ!この人黒魔術を使っているわ!」


今叫ぶのかとオーロラはげんなりした。

治療に集中できない。


だが、黒魔術という言葉にびくっとした人間が大半である。

こうなることはわかっていた。


「なんだって?闇魔術師だと?」


「殺される~」


「なんで闇魔術師がこんなところにいるんだ。ただでさえ死にそうなのにぃ」


元気な兵士たちの中には驚いてテントを出ていく者もいる。


「ほら、あなたのところにも黒い魔力の流れが見えるわ」


ノエルは大聖女だ。大聖女のいうことは誰でも信じてしまう。

しかもこんなにかわいらしい女性なのだから。


でもオーロラには覚悟が出来ていた。

ここに来る前にもうそうなることはわかっていたのだから。

ただ、今はこの兵士たちを皆助けたい。


「黙ってください。治療中です。治療を受けたい方だけテントに残ってください!」


オーロラは凛と言い放った。


「黒魔術でも血水症の治療はできるんです。さぁ」


今まさに見ようとしていた患者がびくびくしていたので手を出すよう促した。


「いい加減にせよ!」


と、ウォルターの大きな声がテント中に響く。

マスク越しなのでくぐもってはいるが、その声に空気がピンと張りつめた。


「今お前たちはオーロラが治療したのを見なかったのか?血水症菌におかされたお前たちの仲間がよくなったのを見ただろう?」


「え?そうかもしれない」


オーロラの目の前の兵士が手を差し出した。

オーロラは集中して血水症菌を取り除く。


「はい。終わったわ。別室へ行って頂戴」


「は、はい」


楽になったのか、目の下のクマがとれている。


「そんなことを言っている暇があったら、早く患者をひとりでも助けて。あなたは大聖女でしょう?」

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