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「デイジー。絶対離れるなよ」


ぎゅっと力を込めて手を握られており、かなり痛い。


「わかっております、ジル。大丈夫ですから」


奴隷のオークション市場に来ている。

クロドの街の酒場のかなり奥まった路地の奥の小汚い倉庫の入り口を入るとその会場はあった。

ミシェルの変装道具がすばらしく、一時的に髪の色と瞳の色を変える魔道具を使い、舞台女優のメイクをしていた女性をどこから見つけて来たのかミシェルが呼んでいたので、ふたりとも全然ちがう顔だちになった。他国から来た貴族の若いカップルという出で立ちだ。服装は目立たぬよう派手目のものは避けてある。

名前はジルとデイジーにしようということで決まった。

オークションへの参加には招待状が必要だということだったが、ミシェルがどこからか手に入れてきていた。

知り合いの知り合いの知り合いを頼ったとからしい。

彼がこんな裏家業に適した人間だったとは驚きだ。


「ここにしようか」


「はい」


オークション会場は地下に作られており、かなり豪華な観劇場のような造りになっている。

ウォルターとオーロラは目立たぬ端っこの方へ座った。


まわりを見渡せば、貴族風の出で立ちの者が目立つ。ウォルターは目を細めて彼らを観察しているようだ。


会場入りすると同時に使用人らしき者が札をふたりに持ってきた。


「こちらをどうぞ」


「ああ」


この札をあげて入札するらしい。


「どうすればいい?」


片言のソードノーズ語でウォルターが聞いている。かなりうまい。

ルヴィエ訛りをかなり入れているようだ。


「入札時にこの札を挙げてください。金額はその際ご提示ください」


「わかった」


オーロラはどうしようもないとき以外は口を開かないことに徹底している。

どうも訛りを話すのは苦手らしく、ここに来る前に練習したがへたくそだとミシェルに笑われたからだ。


「どうぞ。ごゆっくり」


ん?

その使用人を見る。

その「どうぞ」の言葉に何か違和感を感じたのだ。


どこかで聞いたことがある気がした。


使用人と目が合った。


え?


どこにでもよくある茶色の瞳だ。

だがこの瞳はどこかで見たことがある。


使用人が去っていく。

その後ろ姿を見て直感した。


あのときの老婆だわ。


間違いない。


背は曲がっていないが間違いなくこの後ろ姿はあの時のものだ。

なんといううまい変装。


なんてこと。

エンジェルの母とつながっていたなんて。


その使用人は実は歳をとっておらず、若かったということだ。今のしゅっとした背格好こそが本来のこの女性の姿。

まだオーロラより少し年上くらいの女性ではないか。


エンジェルの母と繋がりがあると言うことはエンジェルとも?

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