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そしてその夜がやってきた。
「そこにかけなさい。エンジェル」
父の顔には表情はなかったが、一家の長として当たり前のことをしているのだと思っているのか悪びれた風は一切なかった。一緒にやってきたエンジェルは怯えたように父の後ろにうつむいて立っている。これは前世そのものだ。
「エンジェルと申します。失礼します」
あまり教育を施されず育ったのも前世のままらしい。かわいらしい顔だちをしてはいるが言葉遣いはなかなか貴族とは程遠かった。
だいたいひそかに家まで与えて育てて来た女の子だというのに貴族としてのたしなみは教えておかなかったのかと気になる。
そのへんが父は適当というかなんというか。
エンジェルは十六歳の今になって家庭教師をつけられ三年ほどかかってようやく貴族令嬢として一人前になる。
ちらと義母を盗み見たが相変わらず鬼のような表情だ。
シーヴァは青ざめてオーロラの横に座っている。
そのまま父に促されエンジェルはオーロラの横の席に着いた。
静かな夕食だ。
誰も何も言葉を発しない。
義母は父には逆らったことがない。
義母の実家はグッドフェロー公爵家と同等の公爵家の家柄ではあったが、この時代男に女が逆らうことは許されなかった。
だから、静かに食べ続けている。
だが、怒りに震えているのか目の前にいる義母の手はふるふると震え続けていた。
おそらくエンジェルについて使用人に調べさせたのだろう。自分の侍女に父が手を出して子を産ませ匿っていたということは知っているに違いない。
となりで食べるエンジェルはカチャカチャと食器の音をさせている。
教育を受けていない証拠だ。
前世ではこのときオーロラは静かにエンジェルをフォローし、使い方を指南していた記憶があるが、今回は何もしなかった。
あんなことをされてする気にはならないだろう。
ただただ静かに食べ続けた。
皆を観察しながら。
そしてふと思った。
父は義母に対して悪いと思っているのでは?
よく考えてみたら今までエンジェルがいることを内緒にしていたということは母に対する遠慮に他ならない。
いくら母が同等の公爵家から嫁に来ているとはいえ、父はグッドフェロー公爵だ。本来の父の性格から考えてもエンジェルを将来政略結婚の駒として使いたいなら堂々と最初から家に入れたはずだ。
実際オーロラの時は見つけた時点で躊躇せずに家に入れていた。
だが入れなかった。義母の侍女に手を出したからだ。
それを悪いと思っているのだ。
エンジェルにろくな教育を施さなかったのもかくまっている家にはろくに顔を出していないからだと推測できる。
行こうと思えばいつでも行けたはずなのに行かなかったのは義母への遠慮だ。
なんだかんだ、父は義母を一番大切にしているのだ。
ふーん。
こうなってくると、今自分がやらなければならないことは……。




