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「オーロラ。風邪ひくよ」


むにゃ?


クティの声にオーロラはがばっと起き上がる。


「まぁオーロラは風邪ひかないけどね。でも寒いからちゃんと布団で寝ないと」


どうやら押し花を作っていてそのまま机の上につっぷし眠ってしまったらしい。

春の夜はまだまだ寒い。ぶるっと悪寒が走りあわてて布団に入り込む。


「ついに会ったんだね」


クティはオーロラの枕元にちょこんと座った。


「うん。驚いた」


「だろうね」


にまっとわらったクティにオーロラは思った。


「まさか、クティは最初から知ってたの?」


「へへ」


そういえば、クティは精霊である。自分が知らないことを知っていてもおかしくはない。


「ひどい。教えてくれなかったじゃない」


オーロラはぷうっと口を尖らせた。


ウォルター王太子が実はジルだったと知ったときどれだけ驚いたか。


前世であんなに弱々しかったのは毒に冒されていたからだったのだ。

奥様が亡くなった後もずっとジルだけ毒を盛られ続けていたのかもしれない。

だが、驚くことにあのユングの毒を摂取しつづけていても死ななかったということか。

もしかしてずっとタンポポ入りのクロワッサンを食べ続けていたとかだろうか。

もしくは実は強靭な体の持ち主なのか?

そうかもしれない。だって今のウォルターの身体を見たら強靭であることは一目瞭然だ。

毒にも負けない体だったのか。


まあ、前世のことはもう過ぎたこと。色々考えても仕方ない。あの毒の事件を解決したおかげでウォルターは今は元気もりもりなのだからよしとしよう。


だが、やはり毒の威力は凄まじいのだ。

あまりに違っていて同一人物とは思えないくらいだ。

あのプラチナブロンドの綺麗な髪は毒のせいで灰色に変色していたのかもしれない。


「僕が全部知っていたわけじゃないよ。ただ、あのデイジーの花の主はまだ生きているってことは知ってた。そしてオーロラといつか会うってこともね」


「何なの、それ?」


「精霊は人と人の結びつく運命みたいなものがあることを知ってる。だけどそれは人間には言えない。それは禁忌なんだ。それを言うと僕たちは生を失う」


「そうなの?」


「うん。まあね」


そんな制約があったなんて。

精霊もいろいろ大変だ。

確かに精霊が人と人の出会いをすべて教えてしまったら、人間界は成り立たない。


「だからよかったよ。再会できて」


「そうかな?」


「嫌なの?」


クティの顔が曇る。


「そうじゃないわ。ウォルター殿下が健康に生きていてくれてとても嬉しい。セシル妃もとてもお元気だったし。だけど再会しちゃってあんなに元気だったから逆にね」


もともとウォルターのことを愛していたけれど、あんなふうにすばらしい男性になっていると愛してるというよりは、キュン死しそうになる。

スマートで紳士な対応をされたら余計に。そんなことでは数年後にノエルが現れた時に自分が平気でこの場所を去れるかどうかわからないではないか。


「けれどそのデイジーの花、もらったんでしょ?」


「え?うん」


「前みたいに栞にしてるってことは嬉しかったからじゃないの?」


精霊は人間の細かい感情までは理解できない。それは前世のときに気づいた。

喜怒哀楽は理解できるが、嬉しいけれど悲しいとか、楽しいけれどさみしいとかそういう機微な感情はよくわからないらしいのだ。


「これはウォルター殿下がいなくなったときの保険よ」


「保険?」


「いいの。わたしが勝手にやってるだけだから」


ウォルターがノエルのもとへ行ってしまった時、ノエルを愛してしまったときに自分がさみしくならないようにするためのものだと説明してもよくわかってくれないだろう。


「ふうん」


「いいの。ほうっておいて」


そういうとオーロラはまるまったクティの身体に顔をうずめた。


「オーロラったら。くすぐったいって」


「もふもふさせて」


相変わらずこのもふもふだけはやめられない。人間のばかみたいに細かい感情が全部ぶっとぶ。


オーロラはそのままクティのもふもふをむさぼるのだった。


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