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誰かに似ている

「どうしようどうしようどうしよう。こんなところで会う予定じゃなかったのに! 古道具屋でバーンとかっこよくミステリアスに登場するあたしの計画が台無しだぁ」


キャスケット帽をかぶったその人物は、一度僕らに向かってやあ、と手を挙げたあと急に取り乱した。

黒縁の眼鏡もしていないし冒険者の装備も身に着けていないから依然とは雰囲気が違って見えるけど、間違いなく以前店に来た探偵見習のチェロキーだった。


チェロキーはぶつぶつと思ったことをすべて口に出しながら頭を左右に振る。キャスケット帽の下から垂れた二本の三つ編みが揺れる。


「チェロキー、だよね? ひょっとしてファエナさんが言っていた助手って……」

「はい! あたしのことっす! よろしくっす!」


ジェイドは名前を聞いてようやく思い出したようだった。


「あのへたくそな変装してた探偵見習か!」

「へへ。へたくそは傷つくっす!」

「にしても、なんかその感じ誰かに似てるな」


照れたようなその仕草に、僕も同じことを考えていた。

その喋り方も相まってどことなく誰かを彷彿とさせる。


買い物を終えて停留所に戻ると、ふたりと合流した。

待っている間ふたりが何をしたのか知らないが、停留所で待っていた人たちからたくさんのお菓子をもらってほくほくした顔をしている。


「遅かったわね」

「待ちくたびれたわ」


そのわりに楽しそうな顔をして、ミランダとメリンダが僕たちの後ろをついてきたチェロキーに視線を移す。


「よろしくっす!」


ふたりは急に人見知りを発動したのか無表情で顔を見合わせたあと、差し出された手をじっと見つめている。

しかたなく僕はチェロキーに皆の紹介をしようと話しかけた。


「いや、大丈夫っす! ジェイドさんに、バルムンク君、ミランダちゃんと、メリンダちゃん。ちゃんと覚えてるっす!」


チェロキーに名前を伝えたことがあっただろうかと不思議に思ったが、僕たちの会話から名前を知ったのかもしれないと思い直した。


それからしばらくして、ようやく馬車がやってきた。

乗合馬車には座席がなく、立って乗るのが一般的らしい。

ここで降りる乗客を降ろしたあと僕たちも乗り込む。

幸い人は少ないからスペースはゆったりとしていた。

当然ながらミランダとメリンダは酔い止めなど必要とはせず、酔い止めをあらかじめ飲んでいたはずのチェロキーは、ずっと吐きそうな顔で馬車の外に顔を出していた。


ようやく到着した時には、チェロキーはぐったりと馬車の床に座り込んでいた。


「ほら、ここで降りるんだろ?」

「はいぃぃぃ」


ふらふらとしながらチェロキーが馬車を降りた。

ここは町と呼ぶにはあまりにも小さく、宿泊所と飲食店などが数軒あり、その後ろに民家がいくつかあるような集落で、特別に用事がなければ立ち入ることはなさそうな場所だった。


「ここであってるんだろうな」


出歩いている人も少なく、静かすぎる様子にだんだんと不安になってくる。

そもそも僕たちがこれから会いに行く古道具屋の男が、店主の失踪のことを知っているとは限らない。

はっきりいって無関係な事件に巻き込まれているだけなのかもしれないのだ。

でも手がかりがないのも事実。

とりあえず、会ってみるしかない。


その古道具屋は、集落の一番奥のさらに静かな場所にあった。

その建物や看板からはこの店が随分と昔から続いていることがうかがえる。


「じゃ、ここはあたしから!」


意気揚々とチェロキーが店のドアを勢いよく開けた。


「ごめんくださいっす!」


店の中はたくさんの品物で溢れかえっていた。

黒の革グローブや武器の類、古書や回復薬などが無秩序に、だが丁寧に並んでいる。

一見すると何がどこにあるのかわからないのに、店主に訊ねるとすぐに探し出してくれる、そういうタイプの店だった。

しかし肝心の店主の姿がない。

売り場部分はそう広くないが奥に小さな部屋が見える。二階につながる階段も見えた。


「おーい、誰かいないのか」


ジェイドも声を張り上げる。

しかし店はしんと静まり返っている。


「留守か?」


店の奥を覗き込むと、カウンターにある椅子の周りだけ妙に物が散乱していた。

まるでその場所で誰かと争ったような形跡だ。

それは、雑誌記者殺しの容疑者とされていた古道具屋の男が、何者かにさらわれた可能性を示していた。

ジェイドもチェロキーもそれに気づき、深刻な空気がその場に漂った。


その時、部屋の奥で小さな話し声が聞こえてきた。

ミランダとメリンダが何かをもって話しかけている。


あれは……。


僕はその正体を口にするよりも前に、ジェイドが焦ったように大声を上げた。


「おいおいおい! 子供が興味持っていいもんじゃねぇだろ!」


ふたりの手にあったのは、例の惚れ薬だった。

にこにこと嬉しそうに笑いながら、小瓶に向かって話しかけている。

すかさずジェイドが手を伸ばす。

だが奪い取られる前に小瓶を持っていたミランダがそれをメリンダに投げた。


「急に何するの!」

「いや、だからそれはお前らにはまだ早いんだって」


今度はメリンダに手を伸ばす。

メリンダは小瓶を呆気に取られて傍観していたチェロキーに向かって投げた。


「これなんすか……って! ほ、ほ、惚れ薬じゃないっすか!」

「ちょ、馬鹿やめろ!」


両手で受け取ったチェロキーがそれをまじまじと見る。途端に顔を赤らめて、きゃあああと悲鳴を上げながら大きく宙に小瓶を放り投げた。

小瓶が放物線を描きながら床に落ちていく。

ジェイドからもふたりからも距離がある。


まずいまずいまずい!


割れて中身が零れでもすれば、大惨事が起きる——!


僕は咄嗟に体を床に投げ出した。

木の床を体が滑っていく。

みんなが一斉に僕を見ていた。

僕は、手の中にしっかりと握った小瓶を掲げて見せた。

みんながほっと息を吐く。

全員(主にジェイドとチェロキー)が惚れ薬の影響を受ける最悪の事態は免れた。


ジェイドは僕から小瓶を受け取ると、返してと文句を言われながらもふたりの手の届かない棚の上に置いた。


「何よ! ジェイドの馬鹿!」

「あれはセクシーな犬のお姉さんなのよ! 一緒にボールで遊んだんだから!」

「セ、セクシーな犬?」


ふたりの抗議の声に、ジェイドもチェロキーも困惑の表情を浮かべる。

それもそうだろう。

その言葉だけを聞けば、なんのことだかわからないのが当然だ。

僕はとりあえず、店主が惚れ薬を犬の姿に変えてミランダとメリンダと一緒に遊んでいたことを伝えて誤解を解いた。


「なるほど! やっぱ店主さんの魔法はすごいっすね! 道具を人や動物の姿に変えるなんて」


僕と、ミランダとメリンダが店主の魔法で人間化していることも、この際だから説明しておいた。チェロキーは、すごいすごいとひたすら感心していた。


「お姉さん、店主を見たって言ってたわ」


ミランダが棚の上にある小瓶を見つめる。


「店主はここに来たのよ」


メリンダもはっきりと断言した。


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