前を見ながら後ろを見る②地雷系依頼
その人物がやってきたのは、半刻ほどたった時だった。
ドアを荒々しく開けるとずかずかと店内を進み、カウンター越しに店主にぐいっと顔を近づけた。
「おい、店主! なんでまたギルドに依頼してんだよ!」
大きな声が店内に響く。よほど慌ててこちらに来たのか、額には浮かび息が切れている。だが店主はいつもどおりのんびりと「意外と早かったですね」と感心したように迎え入れた。そして冷たい水を差し出す。
「直接依頼しろっていつも言ってるだろ、なんで直接言ってこないんだ。だいだい昨日もここで飲んでたんだから、そん時に言やあよかっただろうが」
「でも冒険者への依頼ですし、ギルドを通すのが筋かと思って」
何が問題なのだろうときょとんと首を傾げる店主に、ジェイドは焦れたように頭をがしがしと搔きむしる。
「しかも公開依頼なんてしやがって。せめて指名依頼にしろよ」
「いいじゃないですか、ちゃんとジェイドが来てくれたんですから」
その微笑みに、ジェイドはひときわ大きなため息を吐いた。
「あのなあ、何も知らないやつがお前の依頼受けたら、たいていのやつは冒険者やめたくなるからな」
「そうなんですか?」
「……まあいい。で、どこのダンジョンだ?」
「『時の牢獄』です」
店主がギルドに依頼したのは、深層のボス討伐の”護衛”。つまりボスを討伐するからその間護衛をしてほしいという依頼だ。ボスを倒せるような実力のある人間の護衛をするなんておかしな話だし、もれなくボス戦に巻き込まれてしまうこの地雷のような依頼を受ける冒険者はほぼいない。毎回ジェイドが依頼を受けてやってくるから実質指名依頼のようなものだが、どういうわけか店主は毎回公開で依頼をかける。ジェイドが嫌というわけではなさそうだから、それなりに気を使ってのことのようだ。
気の使い方の方向性に若干違和感を感じないわけではないが、今回のように深層にある遺失物を救出に行くときは店主一人ではなにかと不都合なので、内心ジェイドが引き受けてくれることは僕としても安心だ。
「ちょっと待って!」
半ば悲鳴のような声が聞こえて、僕と店主がカウンター奥を振り返った。
「店主あなた、「いまから来る人」って言ってたわよね……?」
「まさか……その男?」
「ええ、そうですよ」
人間化していない双剣の声はジェイドには聞こえない。もし聞こえていたら泣いていたかもしれないと思うような悪口が双剣から次々と飛び出す。
「後出しが過ぎるわ!」
「この男が来るって知ってたら絶対私たち拒否してた!」
「野蛮だわ。それに頭も悪そう」
「気持ち悪いし、剣とかただ振り回せばいいって思ってそうな脳筋だし」
僕と店主が苦笑したのを見て、ジェイドが不思議そうに尋ねた。
「そいつらが何か喋ってんのか? なんて言ってるんだ?」
「ジェイドのことをすごく褒めています」
「え、本当か?」
平気な顔でしれっと嘘を吐く店主と、途端ににやにやしだしたジェイドに僕は何も言えなくなる。「冗談じゃないわ!」「嘘つき!」と双剣が騒ぐが、店主は何も聞こえていないような涼しい顔をしてジェイドに提案した。
「今日はこの双剣を使ってみてくれませんか?」
「これを? 俺、双剣って使ったことないんだよなあ」
「確かにいつものロングソードに比べると身体の動きと間合いの取り方が変わりますが、ジェイドなら大丈夫です」
なおも騒ぎ続ける双剣に店主が「ちょっと待っててくださいね」とジェイドに声をかけて振り向く。そして完璧で隙のない美しい笑みを形作る。
「では留守番します?」
ひぃっと声にならない悲鳴をあげ、双剣が大人しくなった。有無を言わさない笑顔の圧がとても強い。関係ない僕ですらびくっとすくみ上ってしまうような迫力だ。
「……留守番は嫌」
「じゃあ決まりですね」
小さな声で零した双剣に、店主は満足したように微笑む。かなり強引な気もするが、連れていかなければ双剣はあとから文句を言いそうだししかたないだろう。
そうして僕たち一行は魔法陣でダンジョン『時の牢獄』へと向かった。




