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こちらダンジョン遺失物センター ~落とし物の声を聞き、持ち主に返すのが仕事です~  作者: 本田べじ


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家に帰るまでが冒険です②エプロンの救世主

突然吹いた風は、僕の鼻の先を掠ってオーガめがけて飛んでいった。


えっ……?


オーガの巨体が風を受けて浮き上がったかと思うと、そのままものすごい勢いで水平に吹き飛ぶ。ずっと先まで飛んでいき、ダンジョンの奥の石壁に大きな音を立てて激突してようやく止まった。壁に強く打ちつけられた巨体はピクリとも動かない。そのうちに身体の表面が青く光り、全体が透けはじめる。気が付くとそこにはもう何もいなかった。

ダンジョンの魔物は死ぬと消えるって聞いていたけど本当だったんだと僕は妙なことに感心する。


コツコツと石畳の床を靴音が響き、誰かがだんだんとこちらに近づいてくる。魔物ではない。人の気配だ。ということは冒険者なのかな。あの魔物を一撃で倒した冒険者なら、とても強そうな人に違いない。筋肉隆々としたいかつい見た目を想像する。

ところが、目の前に現れたのは背が高く若い、とても綺麗なお兄さんだった。武器も防具も何一つ持たず、スーツのような服の上から黄色いエプロンを身に付けている。そのエプロンは何のへんてつもない肩から下げるタイプのもので、髪色や目の色に、エプロンのはっきりとした黄色が絶妙に似合わない。なんというか、場違い感がすごい。

ひょっとして人の形をした魔物だろうかと警戒心を強めていると、お兄さんが僕を見てにっこりと笑った。


「お待たせしました」


その笑顔は安心感のあるもので、僕はすっかり警戒を解いた。でも、この人は誰だろう。どうして僕に話しかけるんだろう。どうして僕を助けてくれたんだろう。


「あ、怪我をしてますね。早く治しましょう。痛くはありませんか?」


混乱している僕をよそに、お兄さんは僕を抱き上げ、怪我をした左肩を見て少し顔をしかめた。


「少し、痛い……」


声に出すと、痛みがもっと強くなった気がする。お兄さんは安心させるように笑いかけながら「ではすぐに手術をしましょう」と頷いた。


移動用の魔法陣で連れてこられたのは、不思議な空間だった。ダンジョン内だというのに魔物は一匹もいない、とても静かな場所。そこにはぽつんとお店が建っていて、お店には看板がかかっていたが僕は文字を読めないから、何のお店かはわからなかった。でもお兄さんはエプロンをつけているしコーヒーの香りがするから、カフェなのかもしれない。ダンジョンの中にカフェがあるのは不思議な気がするし、冒険中にカフェで一服する冒険者なんていない気もするけど、そもそも僕はダンジョンのことも冒険者のこともよく知らないからそんなものかと勝手に納得する。

お店にはカウンター席があって、その後ろには重そうな鉄の扉がある。

お兄さんは僕をカウンターの椅子に座らせると、器用な手つきで左肩の治療をはじめた。


「危なかったですね、あと少しで腕がちぎれるところでしたよ」


傷口を触られるたびにチクチクと微かな痛みがしたが、やがてそれも消え、痛みはすっかりなくなった。左肩も全身の細かな傷も綺麗さっぱりなくなっている。


「すごい。お兄さんは魔法使いなの?」

「多少器用なだけですよ」


お兄さんは何てことなさそうに軽く微笑んで見せただけだった。


「ところで、君はなぜあんなところに?」


お兄さんはカウンターの中からコーヒーカップを二つ持ってくると一つを僕の前に差し出した。


「僕、飲めないよ」

「雰囲気は大事でしょう?」


カップからはコーヒーの香りと一緒に湯気が立っている。温かさを感じると、ほっとして胸がいっぱいになった。


「僕は、生まれたときからリサと一緒だったんだ」

「リサというのは、さっき逃げ出した冒険者ですね」

「無事に逃げられたの? よかった……!」


僕はリサが無事だったと聞いて飛び上がりたいくらいうれしくなった。


「君はリサの相棒なんですか?」

「うん。でも、お守り、かな」

お兄さんに今までのことを話すことにした。


リサを守ることは、僕の使命だった。

リサが生まれたとき、お母さんは小さなリサのために僕を作った。病気や怪我からリサを守ってくれますように。リサが無事に成長しますように。

僕にはそんな力はないけど、それでも僕とリサはずっと一緒だった。友達と遊びに行くときも学校に行くときも、リサは僕を連れて行った。だからリサが冒険者になった時だって一緒についていった。お母さんはリサにもっと安全で安定した職業について欲しかったみたいだけど、リサが一度言い出したら聞かない性格なのはみんな知っていたから、絶対に怪我だけはしないようにって言って送り出してくれた。旅立ちの前夜、眠っているリサの部屋にやってきたお母さんが僕に「リサを守ってね」と言った。だから僕は、リサを守らなくちゃいけない。


「リサは僕のすべてなんだ」


お兄さんは僕の話を、コーヒーを飲みながら静かに聞いていた。時折相槌を打って話を促してくれる。こんなふうに話を聞いてもらったことは今までになかった。そう思って、ふと僕は気づいた。


「……お兄さんはどうして僕の声が聞こえるの?」


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