8. 王立図書館の影
アルダールの中心部へ向かうにつれ、街並みはさらに壮麗さを増していった。
魔力で浮かぶ街灯、空を滑るように走る魔導車、そして道端で魔法を披露する大道芸人。
アルフレッドはそのすべてに目を奪われていた。
「すげぇ……本当に、魔法の街なんだな」
「でしょ?」
セリーヌは得意げに微笑む。
「でも、目的は観光じゃないわ。まずは王立図書館よ」
二人は街の中心にそびえる巨大な建造物へと向かった。
白い大理石で造られたその建物は、まるで神殿のような威厳を放っている。
入口には魔法陣が刻まれ、淡い光が脈打つように揺れていた。
「ここが……王立図書館」
アルフレッドは思わず息を呑んだ。
「大陸中の魔法書が集まってる場所よ。焔の継承者についての記録も、きっとあるはず」
セリーヌは胸を張り、堂々と扉を押し開けた。
中に入ると、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
高い天井まで続く書架には、無数の魔導書が整然と並んでいる。
魔力の光がふわりと漂い、まるで本そのものが呼吸しているかのようだった。
「すごい……こんな場所、初めてだ」
「私も初めて来たときは感動したわ」
セリーヌは懐かしそうに微笑む。
「でも、ここはただの図書館じゃないの。魔法の知識が“生きている”場所よ」
二人が奥へ進むと、受付に座る老魔導士が顔を上げた。
「おや……セリーヌ殿ではないか。久しいな」
「こんにちは、アーヴィンさん。今日は調べたいことがあって来たの」
「ほう、そちらの青年は?」
「アルフレッド。焔の継承者よ」
老魔導士の目が鋭く光った。
「……焔の継承者、だと?」
アルフレッドは少し身構えたが、アーヴィンはすぐに穏やかな表情に戻った。
「心配するでない。ここは知識を求める者のための場所だ。
継承者であろうと、我らは歓迎する」
そう言うと、アーヴィンは杖を軽く振った。
すると、空中に光の文字が浮かび上がり、書架の一角を指し示す。
「“古代継承者史”の区画だ。そこに焔の継承者に関する記録が残っているはずじゃ」
「ありがとうございます!」
アルフレッドは深く頭を下げ、セリーヌと共に書架へ向かった。
二人は古びた書物が並ぶ区画にたどり着いた。
革表紙の本はどれも重厚で、触れるだけで魔力の気配が伝わってくる。
「これ……全部、継承者に関する本なのか?」
「そうみたいね。さすが王立図書館だわ」
セリーヌは一冊の分厚い本を取り出し、机に広げた。
「“焔の継承者史録”……これが一番古い記録みたい」
アルフレッドはページをめくり、古代文字で書かれた文章を読み進めた。
“焔の継承者とは、世界の均衡を保つために選ばれし者。
その力は破壊と再生を司り、時に世界を救い、時に滅ぼす。”
「……やっぱり、破壊の力って言われてるんだな」
アルフレッドは苦い表情を浮かべた。
「でも、見て」
セリーヌが指差した先には、別の記述があった。
“継承者の炎は、心の在り方によって姿を変える。
憎しみの炎は世界を焼き尽くし、慈愛の炎は世界を照らす。”
「心の在り方……?」
「あなたが精霊に認められたのは、守りたいって気持ちがあったからよ」
セリーヌは優しく言った。
「だから、あなたの炎はきっと……誰かを救う炎になる」
アルフレッドは少し照れくさそうに視線をそらした。
「……そうだといいけどな」
そのとき――
書架の奥から、かすかな気配がした。
「……誰かいる?」
アルフレッドが振り返ると、黒いローブをまとった人物が書架の影から姿を現した。
「焔の継承者……ようやく見つけた」
その声は低く、冷たい。
セリーヌが即座に杖を構える。
「あなた、誰?」
黒ローブの人物は答えず、ただアルフレッドを見つめた。
「継承者よ。お前の力は世界を揺るがす。
その力、我々の“主”のために使ってもらう」
「主……?」
アルフレッドが身構えた瞬間、黒ローブの人物は魔法陣を展開した。
「ここで捕らえる!」
図書館の静寂が破られ、空気が一気に張り詰めた。




