アイドルオーラ【Aパート】
この作品は『時代に取り残された』と感じている全ての方々に捧げます。
「えっ、明日の昼間ですか?」
健悟は思い掛けない仕事の依頼に思わず訊き返した。
「大型の免許持ってるのは飯綱さんだけなんですよ。
池袋のイベント会場まで大道具や長机なんかの荷物を運んでほしいんです。」
頼んできたのはプロップの企画班の藤瓦だ。
「でも、昼間っていうと泊まり込みになりますし‥‥バイト代も出ないんですよね?」
さすがの健悟も難色を示す。
「そこを何とか。」
拝み倒すかのように両手を合わせる藤瓦。
「あの、2t車なら普免でも乗れますし、俺でなくても別に。」
「皆、大きなのを運転するの尻ごみしちゃって‥‥。」
気持ちはわかる。
「レンタカーの手続きは済んでますし、荷積みは作画スタッフも含めて手伝ってもらいます。
なので、後は運転だけなんです。」
「‥‥わかりました。」
結局、健悟が折れた。
ここまで誘導尋問的に道が塞がれていたら断れない。
「ありがとうございます。」
「それで、その練馬のローカルアイドル・プロジェクトの塩梅はいかがですか?」
「『大泉学園高等部』は今回が初のイベントなんで、まだ何とも。」
藤瓦は苦虫を潰したような笑いを浮かべながら答えた。
察するに、あまり芳しくない状況なのだろう。
事の発端は社長の荻原の思い付きからだったらしい。
元々、荻原の娘が人気アイドルグループ、C―outeに所属していた事で、アイドルビジネス=儲かるという図式が彼の頭の中で出来上がっていた。
中国便スタッフが単価十円、二十円の儲けを必死に出している裏では、このような超浪費型のサイドビジネスが展開していたのが、健悟にとっての『悪縁』となった理由だろう。
● ● ●
翌日、健悟は練馬駅から程なくあるレンタカー業者から借りた2t車でプロップの駐車場まで乗り込む。
そして社内総出でローカルアイドルの公演用の大道具、小道具、長机や椅子などを詰め込んだ。
荷積みが済んだ後、助手席にはナビ役として藤瓦が乗り、真雨は後部座席に乗った。
「大泉学園高等部‥‥でしたっけ?
練馬区のローカルアイドルの初公演が何で豊島区の池袋なんです?」
運転しながら健悟が藤瓦に尋ねた。
「社長の一存です。
始めはこんな大掛かりにするつもりじゃなかったんですよ。
でも、最初のインパクトが大事だと主張されて‥‥。」
一種、山師的な思い付きでプロップを大きくしてきた荻原らしい発想だ。
「ああ、これ、パンフなんですけど、一部どうぞ。」
「ありがとうございます。」
健悟は藤瓦から受け取った公演用のパンフレットをドアポケットに入れた。
● ● ●
「ああ、あそこです。」
藤瓦が講演会場となる建物、シアターマリーンを指さした。
「えっ、こんないい会場なんですか? 入りの方は大丈夫ですか?」
「はあ‥‥実はチケットがあまり捌けていなくて‥‥。
明日の公演も仕事に余裕のある社員をサクラとして呼んでるくらいなんですよ。」
バツの悪そうな藤瓦の声を聞き、健悟は一抹の不安を感じた。
そしてセンターミラーで真雨を見る。
「‥‥‥‥。」
真雨は良縁とも悪縁ともつかない真剣な顔つきで建物を見つめていた。
● ● ●
荷下ろしは企画部の人員とバイトで雇ったと思われる人たち、それに初公演を控えたローカルアイドルたちで行われた。
「この中からスターになる子が出るのかなぁ?」
健悟は車外で大きく伸びをしながら、さり気なく真雨に話し掛けた。
「‥‥どれもこれもパッとしねぇが、一人だけ突出したスターの風格を持っている娘がいるな。」
「えっ、どの娘?」
「ほら、あの茶髪のポニテの娘だ。」
真雨が指さした娘を見た健悟は、すぐさまドアを開け、パンフレットで名前を調べる。
「高見ケイ、か。」
写真ではオーラを全くと言っていいほど感じないが、本人はスターの原石と言うべきオーラを放っていた。
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