元守護霊×守護霊の決闘【Dパート】
ベシッ!
蹴速の鋭い右上段回し蹴りが真雨の首を捕らえた。
「へぶぁぶっ! ンゴロ、ンゴロ!」
吹き飛ばされ、勢いよく転がっている真雨。
「笑~止っ! 相手にならぬぅっ!」
蹴速はニタッと笑う。
「そいつは‥‥どうかな‥‥?」
真雨はゆらりと立ち上がった。
「まさか! モロに入ったあの蹴りをくらって尚、立ち上がるとは!?」
「アタシは打たれ強えーんだよ!
伊達にレベル1で守護霊やってた訳じゃねぇっ!」
「な~らば来るがいい。
こ~ころが折れるまで蹴り続けてやろ~うではないか。」
「言われなくたって、行ってやらぁな!」
真雨の覚悟を肌で感じた蹴速は腰を落とすと、この闘いで初めて構えを取った。
ボクシングで言えばサウスポーの構えとなるが、蹴速の武術に於いては右利きの構えが右手と右足が前に来る。
以後、何発の蹴りをくらっただろう。
しかしその都度、真雨は立ち上がった。
「何~故だ!?
貴様は何~故そこまで我の仕事に関与する!?」
蹴速は真雨の折れない心に言い知れぬ恐怖を感じ始めていた。
「アタシはレベル1、失うプライドなんか持っちゃいねぇ。
――でもな、強制転生はマジで怖えーんだよ!」
「きょ、強制転生!? ‥‥となっ!?」
「テメェにわかるか、崖っぷちに立たされてるアタシの気持ちが!?
ナメクジだぞ、ナメクジ! 未来永劫ナメクジ!
剣やスライムや蜘蛛なら救いがあるが、ナメクジだぞ、おいっ!」
「ナメ‥‥クジ‥‥とな‥‥。」
(こやつは例え百万発の蹴りをくらお~うとも、必ず立ち上がってくぅるぅ‥‥。)
真雨の気迫に蹴速の心は折られ、がっくりと片膝を着いた。
「我の‥‥負けだ。」
「おいおい、あンだよ急に?
でもま、何だか知らねぇが勝ったモン勝ちってヤツだ。儲け儲け、けけけ。
――後になって『やっぱ、さっきのはナシ』なんて言うなよなぁ?」
「武人に二言は無~い!
さあ、とっととあの縁を切りやがれってんだ、このスットコドッコイ!」
蹴速は真雨の目的としている縁の糸をビシッと指さした。
――が、その縁はワイヤー製だった。
「わ、悪りぃ、蹴速のオッサン。
あんたが断ち切ってくんねぇ?
アタシの鼻毛切り鋏じゃ、どうにも刃が立ちそうもねぇや、あはは‥‥。」
「‥‥‥‥。」
結局、香代の縁は蹴速の鉄剣が断ち切った。
途端、香代の身体からあざや傷痕などが消えていく。
そして、心の傷さえも。
「ああ、断ち切れたんですね‥‥。
ありがとう、ありがとう‥‥。」
涙する香代。
「ただいまっと!」
香代の体内からボロボロになった真雨が帰還する。
「おい、お前‥‥ズタボロじゃねぇか! 大丈夫かよ!?」
「たりめぇだ、これくらい。
あ~あ、健悟に心配されるたぁ、アタシも焼きが回ったもんだな。」
真雨は小首をやや前に傾げて人差指で頭を掻く。
掻き終わると、姿勢を持ち直し、
「――香代、あんたと亭主との縁は完全に切れた。
でも、本当によかったのか? 幸せな想い出も結構あったんじゃねぇのか?」
香代に問い質した。
「‥‥政略結婚だったんです。
傾いた家を立ち直らせる為に、無理矢理、父が守護霊に縁を結んでもらって‥‥。
それでも最初はうまくいっていました。
しかし、やがて主人の会社の経営が悪化してきて、日常的な暴力が増えました。
何十年耐えたでしょうか。でも、その暴力は幼い孫たちにも及んできて‥‥。
――もう限界だったんです。」
そこまで言うと香代はその場で泣き崩れた。
「行こう、真雨。俺たちに出来るのはここまでだ。」
「だな。
――んじゃ、後の事は宜しく頼むよ、鷹端センセ。」
● ● ●
「健悟ぉ、もしかしてテメェ、あの香代って女、狙ってんじゃねぇか?
ええ? どうなんだよ、おい?」
アパートへの帰り道、真雨が勘繰りを入れてきた。
「狙ってなんていねぇって。
俺は彼女を幸せになんか出来やしねぇしな。」
「おお、それは同感だ。甲斐性ナシだしなぁ、うんうん。」
「くっそ、なんか他人に言われるとムカつく!」
傍から見たら独り言にしか見えない会話をしながら二人は陸橋を上って行った。
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