元守護霊×守護霊の決闘【Cパート】
「飯綱さん、電話連絡がつかないから。」
瑞希は伝書鳩を抱きかかえながら理由を述べた。
「すみません、スマホを新調するお金がないもので‥‥。
――それで、今日は俺たちに何のご用なんでしょうか?」
健悟は人差指で頬をポリポリと掻きながら神療内科へ招かれた理由を訊いた。
「実は、ある人の縁を断ち切ってほしいのです。」
「縁を切るなんて、そいつの守護霊の仕事じゃねぇか。
そもそも他人の縁なんか切れねぇっつーの。」
真雨が正論をぶつけた。珍しく。
「至極真っ当な意見ですね。
実は、その縁を結んだのがその人の守護霊なので、どうしても嫌だとごねられているのです。
そこで、あなたに白羽の矢を立てたのです。
『元』守護霊のあなたなら他人の縁も切る事が出来るのではないか、と思いましてね。」
「元をそんなに強調する事はねぇだろが。
そもそも、アタシを元にしたのはテメェじゃねぇか。」
ブーたれる真雨。
「一つだけお訊きしてもいいですか?
その依頼人はどなたなのでしょう?」
「‥‥それは私です。」
診察室の奥から出てきたのは香代だった。
「神井さん!?」
「‥‥飯綱くん、見て。」
そう言うと、香代は長袖のブラウスを脱いだ。
「!?」
健悟は絶句した。
そこには無数の青あざがあった。中には根性焼きのような痕さえも。
「誰が‥‥誰がこんな事を!?」
怒りを露にした健悟と真雨がユニゾンした。
「うちの‥‥主人です。」
そこまで言われれば何を断ち切ればいいのか見当がつかない程、健悟も真雨も鈍くはなかった。
「警察は民事不介入なので、この手の問題を厳重注意するのが限界なのです。
縁さえ切れれば離婚届にサインをさせるのも容易いはず。
――どう? 受けて頂けるかしら?
成功したら新しいスマホ代くらいの報酬は出しますよ。」
瑞希の出した提示に首を何度も素早く縦に振る二人。
「んじゃ、ちょっくら仕事してきてやっかぁ。」
真雨はそう言うと、香代の体内に入り込んでいった。
「ったく、あのトンパチ! 少しは作戦くらい練ってから行けっての。」
健悟は無策で飛び込んだ真雨を心配しつつ、文句を垂れた。
縁の糸が並ぶ守護霊の仕事部屋。
そこにどっかと座る香代の守護霊、蹴速がいた。
「あんたが職務怠慢の香代の守護霊さんかい?」
真雨が問い掛けると蹴速はおもむろに立ち上がった。
身の丈、百九十センチオーバーの立派な体躯が真雨を見下ろす。
埴輪のような感じの衣服から察して、かなりのベテラン守護霊なのだろう。
「わ~れは、田尻香代を守~護する者ぉ、荒波乃~蹴速。
我がテリトリーに侵入してく~るとは不届き以て千ば~ん。
名とレベルを名乗りや~がれってんだ、コンチキショウ。」
蹴速は若本規夫口調で命じた。
「アタシは今際乃真雨。
介助職員初任者研修生にしてレベル1!
あんたの代わりに悪縁を断ち切りに来たっ!」
鼻毛切り鋏を身構える真雨。
「ほほう、そのレ~ベルで、乗り込~んでくるとは愚か! 愚か! 愚か!
超大事な事なので三回言いましたとさ。」
「どうしても切らせねぇ気か?」
「当たり気~車力のぉ~コンコンチキィ~。
あれを切りたくば、わ~れを倒して~ミロのヴィーナス。」
「そうかい、そうかい。
――なら、こっちから行くよっ!」
真雨は蹴速に向かって頭から突っ込んで行った。
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