第16話 婚約破棄のその後
☆シャーロット6歳
『わ、私、賎民だと言われたけど、遊んでくれるの?』
『せんみん?何それ?遊ぼう!』
シャーロットは初めて、ニコライと顔合わせをしたときのことを思い出した。
父親の親戚から、賎民の家系だと言われているのを聞いてしまい。
6歳ながら、その意味が分かってしまったシャーロットは
当然、周りの同い年の子も分かっていると思った。
しかし、ニコライは、意味が分からなかったのね。
私は、そんなことを気にするなとの意味に受け取ったけども。
ニコライは知らなかったのね。
「王太子殿下、お願いがあります」
第二王子に手を差し出して、立たせたシャーロットは王太子に顔を向け。真剣な目で問いかけた。
「!!」
「ああ、何でも協力する」
「ニコライ様の一族に最後の機会を授けて下さいませ」
「・・気持ちは分かるが、」
王太子たちは真意が分かっていた。
共同事業のことだ。この瑕疵により王命で、ニコライの家を排除し、下請けもさせないつもりだった。
「気持ちはわかるが、方法が思いつかない」
と正直に言う。
「無かったことにすればいいのです。遡って、私はニコライ様と婚約をしていなかった。
しかし、それはニコライ様のお父様の決断によるべきものです。平民になるか、それとも貴族として、名を復活するか」
「分かった。準備だけはしておこう」
アンは、シャーロットの次の行動が分かっていた。
「お嬢様、別館の通信室に先触れをしておきます」
無言で、アイコンタクトでシャーロットは返事をした。
☆☆☆ニコライの家
「バカモノ・・・」
ニコライの父は、帰って来たニコライを、叱ったが、元気がない。
侍従から概要を聞いている。
「父上、聞いて下さい!シャーロットが勝手にお茶会をやめて、話を聞いてくれません」
しばらく、ニコライの言い分を聞いた後。
「もう、いい・・・部屋に閉じ込めておけ」
と執事に命じた。
「はい、旦那様」
・・・
ガチャ
伯爵の後ろのドアから、メイドが出てきた。
ミヤだ。
「ニコライ様の行動の事実確認をされますか?異議申し立ても出来ます。それが貴家の権利です」
「・・いや、王家の前でスペンサー家を侮辱した。それは間違いない。侍従の証言と、ニコライの言い分から逆算をすれば、分かる。それに・・儂らは・・すがりつく立場だ」
「ええ、その件は、シャーロット様から、共同事業は継続する意思はあり。ただし、ニコライ様に貴族として最も重い罪を王家に申請するのが条件ですと通信で承っています。それか、一族郎党が、平民になるのかの2択です。一族の自決は・・お勧めしません」
・・・そうか。婚約自体をなかったことにすれば、共同事業に参加させてくれるのだな。
助けてくれるのだ。これから、「せきゆ」の事業は間違いなく巨大な利権になる。
瑕疵があれば、そこから横やりが入ってくる可能性が高い。
横やりを入れてくる存在は、王家も例外ではない。
だから、ニコライとの婚約をなかったことにして、王家につけいる隙を与えない。
やはり、シャーロット嬢は、それほどまでの価値があったか。
「ミヤ殿、ニコライは当家の墓に入れて良いのだろうか?」
「ええ、死後のことまではシャーロット様も関与しないとのことです」
「有りがたい。死後、女神様の元で家族一緒に暮らせる。ただし、準備がいる。数週間後、いや、一週間後に実行したい」
☆一週間後
この日は、豪勢な食卓であった。
全て、ニコライの好きなもので揃えられている。
しかし、給仕は執事長とメイド長の二人が直々に行っている。
「父上、一週間、いろいろ考えました。僕はやっぱり、シャーロットと結婚します。また、屋敷に行かせて下さい!再婚約にこぎつけて見せます!」
「ハハハ、頼もしいな。でも、いいのだ。今は食事を楽しもう」
食事が終盤にさしかかり、ニコライが全ての好物に手を付けたころを見計らって兄が話を持ちかけた。
「ニコライ、お前は頑張っている。俺からのプレゼントだ。ニコライ、お前、冒険小説とか好きだろう?お前が好きな出版社のもの全巻、お前に届くように手配しておいた」
「え、兄上、読んで良いの?子供っぽいと笑わない」
「「「笑わないさ(わ)」」」
次は母親が切り出す。
「ニコライが好きだった。カーチス通りの洋服店の服を新調しておきました。これもでき次第届けさせますわ」
「母上。いいの?派手過ぎてダメと言ってたけど、有難う」
更に、兄の婚約者も話す。
「ニコライ様、私は新商品のノートと、ボールペンというものを贈らせて頂きますわ。実家の商会で取り扱っていますの」
「義姉上、有難う」
そして、父が最後に話しかける。
「ニコライ、今日、お前を我が一族の男として、成人を宣言する。
貴族学園を卒業していないが、もう、大丈夫だろう。
それで、この短刀を贈る。ドワーフの職人が、「ニホン刀」から触発されて作り、エルフの付与師が、切れ味に特化して、魔法を掛けた。
その分、耐久性が弱いが、簡単に鉄でも切れる。数回使ったら、もう使えないと思え」
「父さん、有難う」
「いいか。使い方は・・」
父は、その短刀で自分の首を斬る動作を教える。
「これは貴族の男子必携の自裁用の短刀だ。どうしても苦しかったら使え」
ニコライは父の真剣な態度に素直に
「ええ、父上、わかったよ」
と返事をした。
「父上、僕、頑張る・・・」
ドタン!とニコライは顔を食卓にぶつけた。
「・・もう、効いたか、後は手はず通りに・・」
「ニコライ!ウワーーーン、私が厳しく育てなかったから・・」
母が号泣する。
「何を言う・・男子の教育は当主の仕事だ。全て、儂の責任だ」
と妻を慰める。
ニコライが執行された刑は、最も貴族として不名誉である。存在抹消刑。生まれたときからの、全ての記録が抹消される。
ニコライの父が、王家に申請してから、1日で、許可が下り、貴族学園や貴族院、女神教会の名簿から削除される処置がとられた。
もう、冒険者にもなれない。
ニコライは、自然死するまで、離れを改造した牢屋屋敷で生涯をすごすことになった。
☆60年後
「何だ。お前、何故、我が伯爵家の禄を食んでいる!」
既にニコライの孫が当主になる時代になった。
ニコライは不幸にも長生きをしてしまった。
ニコライを知っている最後の存在、兄の妻が亡くなり。
当主が改めて、帳簿を確認したところ。離れに老人が住み着き。食事と日用品をまかなわれている事実を不審に思った。
「・・僕は、お前の大伯父だよ」
「嘘つけ、お爺さまに兄弟はいない。それに、お前、ジジなのに、古い時代の派手な貴族の服を着ていて気味悪いな。部屋も少年小説ばかりだ。出て行け!」
「・・・うう、わかったよ」
ニコライは、わずかな路銀を持たされ追い払われた。
そして、本能の赴くままに、そのままスペンサー家に向かった。
「シャーロット、今、僕が迎えに行くよ・・」
最後までお読み頂き有難うございました。