うじむし11
賢者タイムな私だったが、今の状況がとんでもない、ということは分かる。
たった数日にして、私はうじむしから人間になった。
気になるのは限定神化をウンチャラカンチャラってシステムさんの言葉。そして多分恐らく100%それが原因。
システムさん、これってどういうこと?
何が起こってるの?
『只今、限定神化による影響でシステムは一時的に機能停止しております。復旧には半日ほどかかる予定です。ご迷惑をおかけしますが、ご理解ご協力の程を宜しく御願い致します』
システムさんに聞いたつもりが、こんな文章が頭に浮かんできた。
マジか、システムさん、ダウンしてるのか。
大丈夫かな? 喉やられてないかな? あの甘い低音おじ様ボイスが失われたら世界の損失だ。
システムさん、早く良くなりますように……!
届け! 私のこの執念……!
よし。きっと届いたに違いない。
システムさんがいなければ私は孤独になってしまう。
人は、一人では生きられないのよ……ッ!
一人になっちゃったのは兄弟姉妹全員私が食っちゃったからなんだけどね……。はははは…………、はぁ…………。
あの場面で、自分の選択は正しかったのか、間違っていたのか、それは分からない。というか、答えなんかあるのか?
口の中に、彼らの苦味が残ってる。
仲間を食って生きるのも、仲間と一緒に食われてやるのも、私にはどっちも同じに見える。
ただ、その後、生きてるか死んでるかの違いしかない。
だから、私は生きてる確率が高い方を選んで、賭けた。
それだけの話。
賭けに勝った私は、どういうことか人間の体をゲットした訳だ。
意味が分からんけど、ここはもうポジティブに行くしかあるまい。
うじむしのままでは次の餌場を探すのも難しかったのだ。さっさと移動するとしよう。
「お……っとと……」
立ち上がって歩き出そうとして、体がうまく動かずにふらついた。
ま、まさか、人間の体の使い方を忘れたとでもいうのか?
私はそんなにもウジムシボディに慣れていたというのか!?
軽く尻餅をついて、目に入った光景に唖然とした。
なんだこれ?
手足が、崩れてく……!?
え?
私、死ぬの?
せっかく押し寄せる昆虫の群れという危機を乗り越えたのに、こんな意味もわからず、呆気なく死ぬの?
目の前が急激に暗転する。
意識が霞んでいく。
そんな、こんな最後って……。
人間に成れて、魔法も使えるようになって、これからじゃないの……?
私がここに来た意味って、本当になんだったの?
あぁ、せめて、最後にシステムさんとお話ししたかった……。
そんな思いを最後に、私の意識は途切れた。
そしてすぐに目覚めた。
私が真顔になったのは言うまでもない。
私の周囲には崩れた腐肉の山。これ、人間の私を形作ってたパーツだよ。
色は全部灰色で、臭いはしない。ウジムシ私でも食欲湧かないわ。
そう、私はウジムシに戻っていた。
先程までの私は言うなれば巨大ロボットのパイロット。差し詰め、撃った魔法は必殺技だったということだろう。
時間的には、大体10分も無かったみたいね。
反面、気絶してた時間は長いみたい。もう日が陰ってる。
仕方がない、今日のところは、この元私のパーツを食べて眠ることにしよう。
なに、兄弟姉妹を食べたことに比べれば、よく分からないことになった元自分の肉くらい平気平気。それより空腹で寝ている内にHPが減る方が怖いわ。
もぐり、とかじって咀嚼するけども、うん、味がしない。栄養が感じられない。ゴムみたいな食感がする。
今まで食べた中で最悪の部類だわ。
お腹空いてるから、食べるけど。
はぁ、早く『暴食』的なスキルが欲しい。
システムがダウンしていると、《ステータス》見れないから、ちょっと困る。
明日になれば、きっとシステムさんも復活するよね?