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第九十一話 未来への架け橋


 持っていたはちみつ酒を軽く一口飲んだエリアスは、ゴブレットのなかで揺れる水面を見つめながらつぶやいた。


「――それで、レオは魔王城に行くことになったんだよね……」


 エリアスと並んで夜空を見上げていたレオは、さきほど魔王から聞いた自分の生い立ちをひと通り思いだし終えて、エリアスの言葉に小さくうなずいた。


「そういうことみたいだな……。完全にそのときの記憶を忘れてた……というか魔王に消されてたみてぇだから、魔王から聞くまでまったく覚えてなかったけどな」


 自嘲気味に笑いながら、レオもはちみつ酒をごくりと口に含む。


 エリアスは、そんなレオの横顔をちらりと見やってから、ふとさきほど魔王から聞いた話の続きを思い返した。


 魔王の話によれば、あれから瀕死の状態で魔王城に運ばれたレオは、魔王に生命力を分けてもらい、一命を取り留めたとのことだった。


 そのときに、同時に魔王の魔力も分け与えられて、レオはレナードの魔法の才と魔王の魔力とを受け継いだ、類まれなる魔法使いの力を得たのだそうだ。


 そうして魔王やギルフォードの手厚い看護もあって、レオは徐々に回復していったけれども、幼かったレオは、夜な夜な村が襲われた光景を思いだしてひどくうなされていたらしい。


 レオ自身は表面上は元気に振る舞おうとしていたけれども、ろくに食事も喉を通らず、夜も悪夢を見て満足に眠れない日々が続いていたんだそうだ。


 そのうちに、だんだんとレオはやせ細って衰弱し始めてしまって、それを見かねた魔王とギルフォードが、救済措置としてレオの村での記憶を一時的に封印することにしたらしい。


 時期がきたらレオに幼いころの出来事を話そうということになり、その経緯があって、レオは村での記憶を失ったままギルフォードに育てられて今日まで生きてきた、ということだった。


 レオが、星空を見上げたまま、へへ、と自嘲気味に笑う。


「……だから俺の記憶は、じっちゃんとふたりで山奥で暮らしてたところから始まってたんだな。まさかおまえと同じ村の出身で、しかも幼なじみだったなんて、思ってもみなかったよなあ」


 レオはそこまで言って、エリアスに顔を向ける。


「それがこうして、勇者とその魔法使いとして再会するなんて、なんの因果かねえ……」


 エリアスは、そうだね、と笑いかけてから、ふと視線を手元に伏せた。


「……俺も、『神殿』で村の記憶を消されていたから、当時のことをまったく覚えていなかったけれど、魔王の話を聞いて思ったよ、レオは、レオのお母さんとの約束を心のどこかで覚えていて、勇者の俺を助けてくれるために、最強の魔法使いになって俺のところに来てくれたんだって。だから――」


 エリアスはレオに向き直り、心から感謝の気持ちを込めながら照れくさそうに笑んだ。


「俺との約束を守ってくれて、ありがとう。あのときレオが言ってくれたように、レオの魔法と俺の剣があれば、最強だ。村はもうなくなってしまったけれど、今度は俺と――……この世界を守るために、戦ってほしい」


 握手、とばかりに真剣な顔つきでエリアスが片手を差しだす。


レオは、その手を叩かんばかりに力強く握って、満面の笑みを浮かべた。


「わーかってるっての! 俺が魔法でおまえを守って、おまえは剣で俺を守る、そうしてみんなを守るんだって約束したもんな。いま思えば、シェリーさんも、俺の母さんも、じいちゃんも、おまえと俺が勇者とその魔法使いとしてパーティを組むことになるって、わかってたのかもしれねぇな」


「そうだね。それを思うと、俺がレナードの血筋であるレオと同じ村に生まれたのも、偶然ではなかったのかもしれないね。そうして、『神殿』に連れていかれた幼い俺が、教皇の息子であったヨハンと出会うのも、運命づけられたものだったのかもしれない」


「ああ、それはあるかもなあ……。こうしておまえとヨハンと俺が、勇者と神官、魔法使いとして勇者パーティを組むことになるんだもんな。縁っつーのは不思議なもんだな」


 レオはしみじみと言って、ぼんやりと夜空を見上げた。


 その横顔が、蘇った記憶の中にある幼いレオの横顔をそのまま大きくしたようで、エリアスはじんわりと胸が温かくなった。


(……俺は、レオに謝らないといけない……)


 『勇者』である自分がいたせいで、レオのおじいさんも、お母さんも、村のみんなも犠牲になることになってしまったんだ。


 自分の生みの母である、母さんも……。


エリアスはずきりと胸の痛みを感じながら、手元のはちみつ酒に視線を落とす。


「……レオ、ごめんね」


 ぽつりと言うと、レオがぐるんとこちらを向いて眉根を寄せる。


「はあ? なにが?」


 エリアスは少し口ごもってから、意を決したふうにレオを見つめた。


「――こんなことを言ったら、またレオに怒られてしまうかもしれないけれど、村があんなことになったのは、俺のせいだ。勇者の俺が生まれなければ、村も、村のみんなも、レオのお母さんも村長も、そして俺の母さんも命を奪われることはなかった。……あの悲劇は、俺がもたらしてしまったんだ」


 エリアスがそうはっきりと言いきると、レオが持っていたゴブレットを勢いよく石畳の上に置いてから、大きく息を吸った。


「――っだからおまえ、なんっど言ったらわかるんだよ! 村がああなったのはおまえのせいじゃない、むしろ一番つらい思いをしてんのはおまえなんだよ! また勇者の俺は近くにいる人ほど傷つけちまうとかぐだぐた言ったら、今度こそ尻叩いてやるからな!」


 身を乗りだして本気で怒ってくれるレオに、エリアスは、ありがとう、と答えて。


 前に同じことで悩んだときも、レオは自分を叱ってくれた。


 おまえと一緒にいれば命の危険と隣り合わせだということくらいわかっていると、わかっていて一緒にいるのだと言ってくれたのだ。


 それを聞いて、自分はずっと独りよがりだったのだと気づくことが、できて……。


 仲間に甘えて頼っていいのだと――強がりを捨てて、自分は変わることができたのだ。


 エリアスは、そのことを胸に思い浮かべながら言う。


「……そう、レオの言うとおり、昔の俺ならそう思っていたと思う。俺がいることで周りにいる人たちを傷つけてしまうなら、俺がみんなから離れることで守るしかない、って……。――けれど、いまは違うんだ。レオや仲間のみんなのおかげで、そんな独りよがりな考えをしてはいけないって気づいたんだ」


「エリアス……」


 ほっとしたように、レオが表情をゆるめる。


エリアスは自分の胸もとにそっと手を当てた。


「俺は、多くの人に支えてもらって、ときには命を賭けて守ってもらって、勇者としてここまでくることができたんだって、今回、自分の過去を知ってあらためて思ったんだ。だから俺は、俺のために犠牲になってしまった人たちのためにも、全力で戦って、かならずこの世界の平和を勝ち取りたいと思うんだ。それが、俺を守ってくれた人たちのためにできる一番のことだから」


 それが、勇者として生まれた自分にしかできない唯一のことなのだ。


 勇者の使命をまっとうして、平和な世界を未来へつないでいくことで、亡くなってしまった人たちに報いたい。


 エリアスは、感銘を受けているのかとなりで言葉を失っているレオを見ると、いたずらっぽく笑いながらレオの肩に腕をまわした。


「だからレオ、これからもそんな俺のために一緒に戦ってほしい。なにがあっても俺が前を向いて戦っていられるように、ずっとそばにいて、助けてほしい。それで、もしも危機に陥ったときは――俺と一緒に心中してほしい。俺は昔から、君がいないと駄目だから」


 レオに手を引かれて釣り場へ向かった、あの幼い日の光景が蘇るようだった。


 自分は昔から、しっかり者のレオの後ろをついてまわっていたのだ。


 それは、きっといまも変わらないまま、お互いに大人になったのだろう。


 エリアスに肩に手をまわされたレオは、エリアスが言い終わると、ぶるぶると震えてから恥ずかしくて耐えきれないとばかりにエリアスの手を突っぱねた。


「~~っだから、なんっでおまえはいちいちいちいちくどくんだよっ! そういうのはアキにやれ! ――わかってる、もういまさら言われなくてもわかってんだよ、おまえは俺がいないとどうしようもなくヘタレでドジで放っとくとなにしでかすかわかんねぇってことは!」


「ヘタレでドジ……」


 ずいぶんな言われよう、とエリアスが少し頬を膨らませていると、そんなことにはおかまいなしでレオがエリアスを指さす。


「俺たちは、もうあの村に生まれたときから一蓮托生って決まってたんだろう。だから、言われなくてもこれからも死ぬまでおまえに付き合ってやるよ! だからおまえにも、俺を守るために命を賭けて戦ってもらうからな。おまえの一生を俺に捧げろ!」


 ふん、と鼻息を荒くしてレオが言えば、エリアスは一瞬きょとんとしてから、お腹を抱えて心底おかしそうに笑いだした。


「なんだよ、レオだって人のこと言えないじゃないか。そんなに熱意をもってくどかれたのは、俺、はじめてだよ」


「は、はあ―――!? く、くどいてねぇよ! 変なこと言うな、このやろっ」


「うわっ、レオ、いたいいたいっ! はちみつ酒こぼれるからっ!」


 ぎゃあぎゃあとふたりでじゃれ合ってはしゃいでいると、背後の草むらが、がさりと音を立てる。エリアスとレオが即座に振り向くと、ずっと盗み聞きをしていたのか、魔王がぬっと顔を出した。


「え、魔王っ!?」


 レオが、まじかよ、という顔つきで言いかけたところで、魔王が手元の白ハンカチでちーんっと鼻をかむ。


「ううう、いい友だちを持ってよかったな、レオ……! お兄ちゃんは嬉しいぞ!」


 突然現れた魔王に、エリアスはかける言葉もなくそのまま固まって、レオは遠慮なく魔王ならぬ自分の兄に向って遠慮なく怒鳴りつける。


「てめ、魔王っ! おまえいつからそこにいたんだよっ! 立ち聞きなんて趣味わりぃことしやがって! しかもなんで号泣してんだよ!」


 だばだばと流れる涙を白ハンカチで押さえている魔王は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔のまま、エリアスとレオに歩み寄った。


「……いやあ、良いものを見させてもらった。友情とはいいものだな。エリアス、これからも我が弟のよき友でいてやってくれ」


「あ、えっと、はい!」


「いやいやエリアス、おまえなんでそんなに素直に返事してんだよ! こいつ俺らの話こっそり盗み聞きしてたんだぞ、ちょっとは怒れよ!」


「あ、でも、ほら、魔王はレオのお兄さんだから。失礼があってはいけないと思って」


「兄……」


 レオはエリアスのその言葉を聞いてから、そうだったな、と後ろ頭を掻く。そうして気を落ちつけてから、目の前の魔王を上目遣いで見上げた。


「……魔王、俺、自分でもわかってんだけど素直じゃねぇとこがあって、憎まれ口叩いてばっかりで、その、ごめん。あんたの話を聞いて、あんたが俺の命の恩人だってよくわかって、すげぇ、感謝してるんだ」


「レオ……」


 魔王は表情をあらためて、座っているレオの背丈に合わせて屈む。


 レオはそんな魔王を気恥ずかしそうに見やった。


「だから、まあ……あんたが俺に魔力を分け与えてくれて、俺の新しい家族みたいな存在だってことは、よくわかった。だから、その、お兄ちゃんとは呼べねぇけど――」


 そこまで言って、レオは顔を上げると、にっと笑って親指を立てた。


「兄貴! あんたのこと、これからは兄貴って呼ぶわ! それでいいだ――」


 レオがみなまで言い終わらないうちに、感極まった魔王は、涙ぐんだ目でふるふると震えながら、感動もあらわに全力でレオに抱きついた。


「レオぉおおおお! 我が弟よぉおおおおっ!」


「ぎゃああああっ! 放せっ、痛ぇよっ! 放せってばこのばか兄貴――っ!」


 魔王を引きはがそうとしながらも、レオはどこか嬉しそうにしている。


そんなレオと魔王の兄弟仲睦まじいやりとりを見守りながら、エリアスはくすくすと小さく笑った。


(魔王、けっこうなブラコンになりそうだなあ……)


 レオはきっと、魔王に大切にしてもらえるだろう。


 手のかかる兄としっかり者の弟、いいコンビだなとエリアスは思う。


「――エリアス、レオ」


 そこへ、食事の間から出てきたヨハンが、背後から遠慮がちにエリアスとレオに声をかけた。


「やあ、ヨハン!」


 エリアスがヨハンに微笑みかけて、レオが自分に抱きついている魔王を引っぺがしたところで、ヨハンがエリアスとレオに向かって勢いよく頭を下げた。


「あの、申しわけございませんでした……! 謝って済むことではないと思うのですが、父が、みなさんのご家族や、村の方々に、ひどいことを……! こんな、まさか、父がそのような非道なことをしてエリアスを『神殿』に連れてきたとは、思っても、いなくて……! 僕は、みなさんに、顔向けが、できなっ……」


 言いながら、ヨハンはだんだんと涙声になって、ぽろぽろと涙を流してしまう。


 いつもは大人びて見えるヨハンも、こうして泣き顔を浮かべると、なんだか年相応の少年らしく見えるようだった。


エリアスは立ちあがると、そんなヨハンの前に膝を屈めて、ヨハンの両肩にそっと手を乗せた。


「ヨハン、大丈夫だよ。君は教皇である父君とは違って、俺たちに力を貸してくれて、助けてくれているじゃないか。それに、村の記憶を失って『神殿』に連れていかれた俺の最初の友だちになってくれたのは、ヨハンだったんだよ。ヨハンがそばにいてくれて、一緒に切磋琢磨してくれたから、俺は『神殿』で孤立せずに厳しい勇者の訓練にも耐えられたんだ」


 無言で、必死に嗚咽を飲み込みながらエリアスの言葉を聞いているヨハンに、エリアスは優しく言葉を続ける。


「だから君は、俺の大切な友人で――大切な、仲間なんだ。謝ることなんてなにもない。これからも、変わらずに俺が駄目なときは叱って、勇者として正しい道に導いてほしい」


「エリアス……」


 ありがとうございます――……とまた顔をくしゃくしゃにして涙をこぼすヨハンに、エリアスは微笑みを向けた。


 レオに、ヨハン――自分は本当に良い友人であり仲間と出会えたと思う。


(俺にとっては、レオもヨハンも幼なじみなんだな)


 子どものときからお互いの飾らない姿を見て育ったふたりが、勇者パーティに入ってくれたことになる。エリアスにとっては、それがとても嬉しくて、誇らしかった。


 レオも立ちあがると、ヨハンに歩み寄ってその頭に乱暴に手を乗せる。


「そういうこと! おまえはもう俺たちの仲間なんだからさ、父親のやったことをおまえが気にするこたぁねぇよ。だって、おまえは父親の所業を知って、これから『神殿』を改革しようとしてくれてんだもんな。それだけで、俺の家族も――村のみんなも、報われるってもんだろ」


 言いながら、レオはわしゃわしゃとヨハンの頭をなでる。


 やめてくださいっ、とヨハンは口では抗議しながらも、嬉しそうに泣き笑いの顔を浮かべていた。


 魔王はそんな仲睦まじい三人の姿を見守りながら、ゆっくりと歩み寄る。


「――……時がきたらおまえたちに話そうと思っていたことがあるのだが、いまこそそのときと思う、私の話を聞いてもらってもよいか」


「なんでしょうか、魔王?」


「兄貴がもったいぶるなんて、珍しいな」


 エリアスが問いかけて、レオはもう慣れた様子で魔王を兄と呼んで首を傾げている。


 魔王は決意を固めたふうに短く息を吐いてから、三人の顔を見渡した。


「エリアス、ヨハン、レオ――。もし我々が女神との戦いに打ち勝ち、この世界に真の平和が訪れたら、おまえたちにその平和を守る役目を担ってほしいのだ。戦いに勝つことも大切だが、それが最終目標ではない。むしろ、戦いが終わって平和になった世界を維持することのほうが、もっと大切で、大変なことなのだ」


 ごくり、と唾を呑みこむ三人を前に、魔王は言葉を続ける。


「平和を維持するためには、世界を導いていく先導者たちが必要だ。その立場には、世界のために戦って英雄となった者がふさわしい。だれもが尊敬し、崇拝し、ついていきたいと思うような人物ではなくてはならないのだ。だから――」


 そこまで言って、魔王はまずエリアスにその赤い瞳を向ける。


「まずはエリアス、『勇者』である貴殿には、平和の象徴としてこの世界の頂点に立ってもらいたい。あくまで象徴としてであり、君臨するわけではない。貴殿は、神のような立ち位置でこの世界を見守る立場であってほしいのだ」


 そうして魔王は、次にレオに視線を向ける。


「そしてレオ、おまえには、ゆくゆくは『学府』の学長の座に就任してもらい、学術先進国の統治者となってもらう。そして、この世界の月系魔法を管轄してほしいのだ」


 月系魔法の技術はすべて学術先進国に集約されている。


 その国の統治者になるということは、月系魔法の管理責任者となることなのだ。


 攻撃魔法の多い月系魔法が悪用されないよう、正しく使用されるように組織していく立場になるのだから、世界の月系魔法を背負って立つのだから責任重大だ。信頼のおける実力と信念を持ったレオ以外には、務まらないかもしれない。


 魔王は次にヨハンに視線を移す。緊張した面持ちでうなずくヨハンの表情から、自分が魔王から何を言われるのか、すでにわかっているようだった。


「ヨハン、おまえはもうわかっていると思うが、おまえには『神殿』の教皇となり、神聖国を治めてもらいた。内部の粛清が必要なぶん、一番大変な立場となるだろう。それでも、志の高いおまえなら必ず達成してくれると信じている」


「心得ております、全力を尽くします」


 迷うことなく答えるヨハンに続いて、レオが腰に片手を当てて、にかっと笑う。


「俺も承知したぜ。俺は、この戦いが終わったら『学府』に戻って月系魔法の研究をやりつつ、教鞭をとりたいと思ってたんだよ。俺の魔法の知識を後世に伝えたいと思ってたからな。それなら、いっそのこと学長になって、神聖国の教皇になったヨハンと協力体制をとって、月系魔法と太陽系魔法の発展に尽力するぜ」


 よろしくなヨハン、とレオが拳を差しだすと、ヨハンが、こちらこそお手柔らかに、とレオの拳に自分のそれを軽く当てた。


 エリアスは自分の胸に手を当てると、真剣な表情で一歩前に出る。


「では俺は――……この世界の人びとを見守る、守護神のような立場になります。揺るぎない平和と正義を象徴して、いつまでも人びとの心のなかに立っていられるように」


 うむ、と魔王は満足げにうなずく。


 大勢の人々を前に、エリアスを中心として、学術先進国の学長となったレオと、神聖国の教皇となったヨハン、そして王国の国王となったアーノルドが並ぶ勇ましい姿が目に浮かぶようだった。


「頼んだぞ、三人とも。この世界をおまえたちに託す。私は、草場の陰からおまえたちが立派になった姿を見守っているからな」


 魔王が最後に付け加えたさりげない一言に、レオがぴくりと片眉を跳ね上げる。


「はあ!? なんで引退するみたいなこと言ってんだよ、兄貴! 俺らがそれぞれの国の統治者に就任した暁には、兄貴も魔王として人前に出て演説してもらうからな!」


「……え。えぇええ!?」


 魔王が後ろに大きくのけ反りながら、ふるふると首を左右に振る。


「いやだ、私はそういう人前に立つことは向いていないのだ!」


 いやだいやだやりたくない、と駄々っ子のように逃げ腰になっている魔王の襟元をレオがとっつかまえて、何事かをがみがみと叱っている。


 兄弟の微笑ましい光景を見守りながら、ヨハンが苦笑してつぶやいた。


「……魔王とレオって、バランスのとれた良い兄弟ですよね」


 ヨハンと並んでレオと魔王を眺めながら、エリアスも深々とうなずいた。


「そうだねえ。あのでこぼこ兄弟にヨハンにアーノルドに俺――この五人なら、きっといい世界を築いていけると思う。それに、アキやナコ、ルイスやミーナ、サトクリフやギルフォードもいてくれるからね」


 みんなで手を取りあって、この世界を守っていくのが楽しみだ――……!


 エリアスは、戦いのなくなったまだ見ぬ平和な世界を想像しながら、魔王城の上に広がる夜空に思いを馳せた。





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