第四十二話 魔王の思惑
(まさか、ここまで苦戦させられるとは……)
ナコは、全身傷だらけの自分の身体を見下ろして、悔しげに唇をかんだ。
痛む左肩にそっと右手を添えると、手のひらにべったりと赤い血がまとわりつく。
迂闊だった。いくらイヴァン・クラレンスの末裔であるとはいえ、普通の人間であるヨハンが自分に傷を負わせてくるなど考えてもいなかったのだ。だから、本気を出すまでもないと高をくくって力の出し惜しみをしてしまった。
――ここまで互角に戦われるとは、思ってもみなかったのだけれど……。
ナコは、自分の真正面の壁際に、うつ伏せに倒れているヨハンを見やる。
彼は、月の女神である自分と真っ向の戦いになっても、一歩も引くことはなく、果敢に攻撃魔法を打ち込んで挑んできた。
女神が相手ともなれば、普通ならば畏怖の念に駆られて、恐れおののいて身動きなどとれないはずなのだ。
それなのに、そんな感情などものともしない気丈な姿は、敵ながら感心するものがあった。
けれど、聖槍を使っての詠唱は彼にとって大きな負担だったようだ。
長らく自分との魔法の打ち合いが続いたあと、先にヨハンの魔力が底をついた。
それでも彼は諦めずに、槍を魔法の媒体としてではなく武器として携えて立ち向かってきたのだが――その瞬間を狙い、自分は殺傷能力の高い衝撃魔法を叩き込んで彼に致命傷を与えた。
衝撃波で吹き飛ばされて結界が張られた壁に全身を打ちつけた彼は、その反動で聖槍を手放し、意識を失ったのだ。――ここで勝敗が決した。
ナコは、壁際に沿うように倒れ伏しているヨハンを見すえる。
息も絶え絶えの彼は、目を閉じたまま、わずかにこちらに顔を向けて横たわっていた。
彼の白く美しい祭服は煤と血にまみれて、力を失って薄く開いた彼の口元からは赤い血が一筋おりている。
ナコは、ヨハンによって手傷を負わされた体でよろよろと歩みを進めると、気絶している彼のもとにかがみこんだ。
(……『神殿』創始者、イヴァン・クラレンスの末裔の少年ね……)
当時のイヴァンのことをよく知っている自分は、ヨハンをことを見ていると、イヴァンが生きていた創世暦時代の日々をいやでも思いだしてしまう。
自分にとって、今のこの世界ように創造エネルギーの均衡が崩れることなく、みんなが平穏に暮らしていたあの時代は幸せな思い出だった。
叶うことならば、あのときに戻りたかった。
けれども、一度失ったものは、もう二度と元の形では取り戻せないのだ。
あのかけがえのない日々も、自分を愛してくれたあの人も、帰ってはこない。
――だから。
だから自分は、あの人が愛したこの世界を、あの人の望まない今の無様な形で残しておきたくはないのだ。
崩れてしまったこの世界を、自分の手で消滅させることで、あの人の夢を守りたかった。
それが、自分があの人のためにできる唯一の罪滅ぼしだと思うから。
ナコは手を伸ばし、ヨハンの銀の髪をそっとすくった。指の間を、彼の美しい髪が力なく抜けていく。
「……命を奪うには、惜しいかもしれないけれど」
それでも、彼の祖先であるイヴァンは自分にとっては仇であり、そして、さらに彼は自分が排除しなければならない勇者の仲間でもあるのだ。
だから、ヨハン自身に直接恨みはないにしろ、いずれ敵対する関係である彼をここで生かしておく理由はなかった。
ナコは過去の光景を振りきるように一度目を閉じて、冷えた双眸でヨハンを見下ろす。
そのまま片手を大きく振り上げると、その指先に細い光が集まり、氷柱に似た小さな楔の形をとった。
「気絶したままなら、さほど痛みもないでしょう。――さようなら、ヨハン・クラレンス」
そう言って、光の刃をヨハンの心臓部に打ち込もうとしたときだった。
突如としてヨハンの背後にあった空間が裂け、深い闇の穴が覗いて、そこから暗緑色の髪を風にうねらせた男が姿を現したのだ。
男は、今まさにヨハンに魔法を打ち込まんとしていたナコを見るなり、即座に己の魔力を込めた手を横に振り払った。生まれでた衝撃波が、ナコの魔法を強引に弾き飛ばす。
「きゃっ……!」
ナコは小さな悲鳴をあげて、魔法が相殺された反動でしびれる右手を抱え込んだ。
けれど、男はおそらく魔法の威力を手加減したのだろう。外傷はまったくない。
ナコが右手を押さえたまま男を上目遣いに睨みつけると、男は血のように赤い双眸でこちらを見下ろした。
「――やはりおまえが現れていたか。ナコの身体で好き勝手をやるのは止めてもらおう」
「……魔王……」
やっとおでましか、とナコは内心肩をすくめる。
魔王が駆けつけてしまっては、これ以上この娘の身体を乗っ取っていることはできないだろう。
(どうやら時間切れのようね……)
ナコは、足下で気を失っているヨハンから一歩引くように、両手を挙げて立ち上がる。
そうしてついと顎を上げると、優雅にも見える仕草で髪を後ろに流した。
「案外遅かったじゃない。ヨハン・クラレンスがこの場に居あわせなければ、この娘は手遅れになっていたかもしれないわよ。貴方にしては油断したんじゃなくて?」
嫌味をぶつけてやれば、魔王は表情ひとつ変えずこちらを見返した。
「油断したのはそちらも同じだろう。ずいぶん手酷くやられたようだな。……致命傷になるような傷は避けられているようだが」
涼しい表情で魔王に言われて、ナコはあらためて自分の身体をたしかめる。
自分に致命傷がないのは、おそらくヨハンがナコの身体を気遣って深手にならないような箇所を魔法で狙っていたからだろう。
そもそも自分は、この娘の身体を盾にすれば、ヨハンが本気でこちらを攻撃できないことがわかっていたのだ。
それを考えると、つくづく彼は不利な立場での戦いだったと思うが、こうして魔王が駆けつけるまで自分を足止めすることに成功したのだから、たいしたものである。
魔王がやって来るまで時間を稼がれてしまった結果だけを見れば、実質、自分は彼に負けたのだろう。
(……いいわ。今日のところは、ヨハン・クラレンスの健闘に免じて退きましょう)
それに、自分の身体も深手はないとはいえ細かい手傷でぼろぼろだ。この状態で、世界最強の魔力を誇る魔王と戦う気力はない。
ナコは薄く笑って、負けを認めるように、力を抜いて両手を広げる。
「魔王、今回はこの娘の身体を返すわ。さすがのわたしも、ここで貴方と戦うのは無謀だもの」
「……賢明だな。ならば一時休戦としよう。――次に会うときは、こちらも戦力をそろえて挑ませてもらうからな」
魔王はちらりとヨハンに視線を投げる。
次は彼も仲間に加えるという意味なのだろう。
たしかに、聖遺物の使い手をそろえれば、充分に女神である自分に対抗できるほどの強大な力になる。
自分が記憶している聖遺物は、勇者の聖剣、魔王が身にまとっている聖衣、イヴァン・クラレンスの聖槍、それから創世暦時代にイヴァンの親友だったレナードという男に与えた短剣があったはずだが、現在の短剣の保持者はわからない。
正直、それらの使い手をそろえられては厄介ではあるが、もともと聖遺物を人間に与えたのは自分だ、使い手を集めたとしても、そう簡単にこちらを打ち破れはしないだろう。
ナコは、余裕を見せるように小首をかしげてほほ笑む。
「そう、楽しみにしているわ。それまで、せいぜい力を蓄えておくことね」
そう言って目を閉じたナコに向かって、魔王はその人差し指をついと伸ばした。
途端、ナコの薬指にはめられていた、赤い宝石を頂につけた指輪が、魔王の力に呼応するように深紅にきらめく。
それを合図に、抵抗するそぶりもなくナコの全身から力が抜けて、彼女の体ががくりと崩れ落ちたとき、駆けだした魔王が倒れゆく彼女の身体を下から腕を差し込んで支えた。
ナコの小さな身体が、力なく魔王の腕にしなだれかかる。
魔王は自分の腕に抱えた彼女をそっと見下ろして、詫びるように言った。
「――ナコ、すまない。到着が遅れてしまった。苦しかったな」
月の紋章が消え失せたナコの額には、うっすらと冷や汗がにじんでいる。
全身は傷だらけだが、ヨハンが致命傷を避けたおかげで緊急を要するような深手の傷はなさそうだ。
魔王はナコを抱きかかえ、わずかに口を動かしていにしえの言葉をつぶやいた。すると、彼女の全身が淡い銀の光に包まれて、傷が一気に治癒される。
魔王は次に、地面に倒れ伏して気を失っているヨハンの傍に片膝をついた。
「……よく、戦ったな。驚いたぞ」
正直、女神を相手にたった一人で戦い、さらに彼女を負傷させるまでに戦い抜くとは思わなかった。
さすが勇者に選ばれた神官であり、『神殿』創始者イヴァン・クラレンスの末裔だ。
この若さで聖遺物である聖槍を自在に扱う腕もたいしたものである。
魔王は目を閉じているヨハンの額に手をかざし、ナコと同様に一瞬にして彼の傷を治療する。
流れ出る血が止まったからか、心なしかヨハンの強張っていた表情がゆるんだ気がした。
「ナコを守るために、必死で戦ってくれたのだな。ありがとう。感謝するぞ」
心からお礼を述べると、それが聞こえたのか、ヨハンが青い目を虚ろに開いた。
「ここは……僕は、どうなって……」
「――ヨハン・クラレンス」
名を呼びかけると、ヨハンは朦朧としていた意識を瞬時に取り戻したようだった。
慌てて上体を跳ね起こして、その反動で眩暈を起こしたのか、片手を地について体を支える。
魔王はヨハンを気遣うように目を細めた。
「無理をするな。外傷は治癒したが、身体の疲労は残っている」
「……貴方は魔王、ですか?」
確認するようにつぶやくヨハンに、魔王はうなずいてみせる。
ヨハンは、どこかほっとしたようにわずかにほほ笑んだ。
「……そうですか。では僕は、貴方がやって来るまで時間を稼ぐことができたのですね」
自分の使命を果たしたとばかりに、ヨハンはひどく安堵したように言う。
そうして、彼は魔王の腕の中で眠るナコに視線を向けて、彼女が無事であることに安心したのか、あまり彼が見せることのないやわらかい笑みを浮かべた。
青白い表情をした弱々しいほほ笑みが、彼の疲労を表すようで、どこか痛々しく感じる。
(そこまで酷い傷を負いながら、自分の身を差し置いてナコが無事だったことに安堵してくれるのか……)
ヨハンの優しさに、魔王は軽く頭を下げる。
「おまえは、そんなに手傷を負うまでナコのために力を尽くしてくれたのだな。勇者は、良い仲間を持っているな」
そう言うと、ヨハンはゆるく首を振った。
「いえ、僕には、エリアスの仲間を名のる資格はないんです……。それよりも、僕の傷まで治してくださったのですね。お礼を。ありがとうございます」
「礼を言われることなどない。むしろ、私が油断したばかりにおまえに余計な負担をかけてしまった。すまなかったな」
ヨハンは再度首を振る。
落ち着いた様子のヨハンに、魔王は安堵して肩の力を抜いた。
この不可解な状況でもヨハンがこちらを質問攻めにしないところをみると、『神殿』から遣わされた高位の神官である彼は、月の女神についての粗方の事情を知っているのだろう。
細かい事情を根掘り葉掘り聞かれない状況は、ヨハンと情報を共有しているようで魔王を安心させた。
ヨハンは少し迷ったそぶりをしながら、魔王をまっすぐに見つめる。
「魔王、ひとつだけ教えてください。なぜ貴方は、ナコを自分の傍から離すような真似をしたんです。貴方は、ナコの中に月の女神の人格が宿っていることを知っていて、前もってそれを貴方の魔力が込められた指輪の力で封じていた。それなのに、こうしてナコを一人歩きさせて、貴方との距離が離れて魔力の干渉が弱まってしまえば、女神がその好機を狙わないはずがないとわかっていたはずでしょう」
彼は、魔王を責めるというよりは、純粋に疑問をぶつけているようだった。
魔王は少し思い悩んだように口ごもる。
「……そうだな。理由は二つある。一つは、私がおまえたちに敵意がないことを示したかったのだ。だが、私が直接勇者に会いに行けばいらん火種をまくことになるかもしれない。そう考えて、ナコに転移魔法用の鏡を持っておまえたちのところに行くよう誘導したのだ」
「誘導?」
ヨハンは怪訝そうな顔をする。
「貴方とナコは信頼関係で結ばれているのでしょう。わざわざナコを一人で来るようにけしかけるような真似をしなくても、きちんと理由を説明すれば協力してくれたはずだ。それなのに、なぜそんな遠回しなことを」
「それは……」
魔王はさらに言いづらそうに口ごもりながら、どこか気恥ずかしそうに視線をそらした。
「……ナコを、姉に会わせたかったのだ」
「え?」
「ナコは、こちらの世界に来てからずっと、姉に会いたがっていたのだ。姉に心配をかけていることを気にしていたからな。それに、寂しくもあったのだろう。だが、私がナコと一緒に姉に会いにいっては、角が立って満足に話もできないと思ってな。だから、ナコを一人で行かせたのだ。これが、二つ目の理由だ」
すべてはナコを思っての行動のつもりだった。けれど、それが女神の画策を許し、裏目に出てしまったのだ。
憂慮すべき事項があったとしても、ナコと一緒に行動すべきだったのだろう。結果的にナコを苦しめ、勇者の大切な仲間であるヨハンを負傷させてしまったのだから。
自分の至らなさに唇をかむ魔王に、ヨハンはどこかおかしそうに笑った。
魔王は不思議そうに眉をひそめる。
「……なぜ笑う」
「いえ、すみません。世界を恐慌させる魔王ですから、どれだけ冷酷な人物かと思っていたのですが、そのあたりの人間よりもよほど優しい人物だったのですね」
「別に、普通だ。それに、『魔王』が世界に仇なす人物だと認識されているのは、おまえたち『神殿』の情報操作の賜物だろう」
「それは――」
ヨハンは申し訳なさそうに身をちぢめる。
魔王を世界に危険をもたらす敵とする――。
それは、『神殿』がイヴァン・クラレンスの所業を世間に隠すため、勇者と魔王が戦う表面上の理由を作るために必要なことなのだ。
英雄が存在するためには悪役がいるのだから。
世界に創造エネルギーを注入するために勇者と魔王は戦わなければならない。けれど、『神殿』はその事実は一般市民に秘密にしなければならない。
創造エネルギーの注入が必要になってしまった要因は、イヴァン・クラレンスの大罪によるものだからだ。
それならば、勇者と魔王の戦いに『英雄が世界に仇なす悪役を倒す』という英雄譚の物語をつけ、なぜ倒す必要があるのかという理由をあいまいにしながら一見意味のあるものにすることで、真実から世間の目をくらませるのは上手いやり方だ。
魔王の立場としては理不尽に感じる部分もあるが、自分も、歴代の魔王も、自分たちが勇者に倒されることで、一般市民に疑問を持たれることなくこの世界にエネルギーを注入できるならば、それで良いと思ってきたのだ。
それが、魔王として産み落とされた者の使命だと思っているから。
そういった事情があってのことであるから、ヨハン自身が悪いわけではないのだが、まるで自分の罪のように謝罪する彼は本当に生真面目な性格なのだろう。
ヨハンは、立場上年齢よりも大人びているように見えるが、その実、年に見あった素直な部分も持ち合わせているのかもしれない。
魔王はひそかに微笑して首を振った。
「わかっているとは思うが、おまえを責めているわけではない。それに、私も歴代の魔王も、自分たちが世界の贄となることは大義だと思っているのだ。……おまえは人に気を遣いすぎる。だからこそ、『神殿』の意向と勇者たちとの間で、両者に気を遣うあまり身動きがとれないのだろう」
「それは……そうですね、そのとおりです」
ヨハンの素直な答えに、魔王はかすかに笑った。
やはり勇者は、良い仲間を持っている。エリアスの力になりたい、けれども教皇の息子という立場上どうしたらいいのかわからない、そういった切実さが伝わってくるのだ。
『神殿』と勇者の橋渡し役を担う彼の存在は、勇者にとっても自分にとっても必要だ。
今は身動きのとれない状態だとしても、いずれはこちら側の味方についてほしいと思う。
魔王は、視線を伏せているヨハンを励ますようにまっすぐに見つめる。
「勇者エリアスには、おまえの力が必要だろう。私が言うのも変な話かもしれないのだが、勇者の力になってやってくれ。そしてひいては、私の力になってくれ」
勇者と魔王で力をあわせて、月の女神の思惑を防ぐために。
不敵に唇を持ち上げれば、ヨハンはどこか感銘を受けたように目を大きく開いた。魔王の言葉を噛みしめるように、顔を伏せる。
「――その言葉を、忘れません」
魔王はヨハンの返答に満足したように笑い、ナコを抱え直して立ちあがった。
「今はそれで十分だ。では、私はナコを連れて一足先に魔王城へと戻る。勇者に、魔王城で待つと伝えてもらえるか」
「引き受けました」
ヨハンは、大事そうに祭服にしまっていた転移魔法用の鏡を握りしめる。
魔王は目を細めてそれを見つめた。
それにはたしかに魔王城へ転移できるほどの充分な魔力が溜まっているようだ。ヨハンと、勇者の仲間である魔法使い――レオ・ゲインズが尽力した結果だろう。
(レオ・ゲインズか……)
魔王は、遠い記憶の中にいる黒髪の少年を思いだす。
彼は、自分にとってとても大切な人物なのだ。
向こうは自分のことなどまったく記憶にないだろうが、彼は、私の――。
魔王はくるりとヨハンに背を向け、わざと思い出したふうを装ってたずねる。
「――そういえば、レオは元気か」
「レオ、ですか?」
背中越しに、ヨハンが目を丸くしたような気配が伝わってくる。
前後の脈絡のない、突拍子もない質問に聞こえたのかもしれない。
自分から聞いておきながらも、ヨハンからの返答を待たずに、魔王は思い直したように首を振った。
余計なことを聞いてしまった。ヨハンを混乱させてしまうし、自分がレオを気にかけていることを知られるべきではなかったのだ。
「いや、やはりなんでもない。忘れてくれ」
魔王は虚空を見つめ、転移のための魔法を発動させる。空間がいともやすやすと割けて、渦を巻いた黒い穴が魔王を出迎えた。
そこへ足を踏み出そうとした瞬間、ヨハンが魔王の背中に向かって声を投げかける。
「待ってください! 彼は、レオは、元気ですよ。今はエリアスとアキを探しに行ってくれています。それが終われば、ここへ戻ってくると思いますが」
「そうか」
わざとそっけなくうなずき、魔王は人知れず嬉しそうに唇を持ち上げる。
「それならば、良い」
元気でいてくれるならば、それで。
魔王は少しだけヨハンを振り返る。
「――では、魔王城で再会できるのを楽しみにしているぞ」
力強くうなずくヨハンの顔を焼きつけ、魔王はナコを抱えて魔王城へと姿を消した。
魔王城で、勇者と魔王とその仲間たちが一堂に会する瞬間に、胸を躍らせながら。




