第六幕:章ラスト
森の入口は、夜をさらに濃くしていた。
学園を囲う整備された石道はそこで途切れ、
踏み慣らされていない土と根がむき出しになる。
月は雲に半ば隠れ、
木々の影が揺れる。
そのとき——
鐘が鳴った。
低く、重く、長い音。
祝祭でも時刻でもない。
異常を告げる鐘。
三人は足を止める。
間を置かず、二度目の鐘。
遠く、だがはっきりと聞こえる。
王子が目を細める。
「正式拘束令だ」
粛清派が動いた。
“予備監視”ではない。
内部承認ではない。
公的な命令。
名実ともに、リリアナは国家の拘束対象となった。
そして——
王子も、レディアナも。
もう戻れない。
王子は振り返らない。
学園も、城も、王都の灯も。
一度も。
レディアナも同じだった。
裾を握りしめ、ただ前を見る。
だが。
リリアナだけが、立ち止まる。
振り向く。
遠くに見える学園。
塔の窓に灯りが残っている。
自室の明かりかもしれない。
図書塔かもしれない。
あの教室かもしれない。
そこは彼女の居場所だった。
本を読み、
議論し、
笑い、
物語を紡いだ場所。
追放されるための舞台であったとしても、
確かに“生きていた”場所。
胸が痛む。
だが、涙は出ない。
ゆっくりと、前を向く。
もう違う。
あそこは帰る場所ではない。
選ばなかった未来が残っている場所だ。
王子が静かに言う。
「今夜から、我々は制度の外だ」
その言葉は宣言だった。
王族としてではなく。
学生としてでもなく。
ただ、選んだ者として。
森の奥から、冷たい風が吹く。
鐘はまだ鳴っている。
追跡は、すぐそこまで来るだろう。
それでも三人は、森へ踏み入れる。
枝が揺れ、闇が閉じる。
学園の灯りが、木々の隙間に小さく揺れ——
やがて見えなくなった。
章は、ここで終わる。
だが物語は、制度の外側で、初めて始まる。




