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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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43/63

第三幕:王子の机

夜。


王城の一角、王子の執務室には灯りがひとつだけ残っている。


窓の外には静まり返った庭園。

月光が石畳を淡く照らしていた。


机の上には、三通の文書。


封は切られ、すでに読まれている。


だが署名は、どれにもない。


蝋燭の炎が揺れ、影が王子の横顔を鋭く刻む。


彼は最初の文書を手に取った。


◆ 案一:軽処分


・公式注意

・再発防止誓約

・制度の再確認宣言


文章は整然としている。


学園に通達を出し、

リリアナに形式的な謝意を述べさせ、

王家として“断罪制度の意義”を再宣言する。


それで終わる。


秩序は回復する。


民衆は安心する。


「正しい形」が守られたと理解する。


だが——


それは、恐れによる統治だ。


王子は紙を静かに戻す。


二通目を開く。


◆ 案二:曖昧処理


・文化祭特例扱い

・形式的注意のみ

・公的評価保留


波は収まる。


誰も強く傷つかない。


評議会も妥協できる。


学園も守られる。


だが問題は消えない。


曖昧さは、静かな亀裂として残る。


“判断しなかった王子”という記憶だけが。


王子の指先が、紙の端を押さえる。


選ばないという選択。


それもまた、選択だ。


三通目。


◆ 案三:不問


・公式声明なし

・表現の自由容認


短い。


簡潔。


だが最も重い。


王家が何も言わないということは、

制度の変容を事実上認めることになる。


断罪は義務ではない。


裁きは必然ではない。


その前例が残る。


評議会との対立は避けられない。


王子は椅子にもたれ、目を閉じた。


静寂の中、舞台の光景がよみがえる。


沈黙。

罪を引き受ける声。

裁かれないまま立つレディアナ。


彼は小さく呟く。


「あれは反逆ではなかった」


確かに違う。


王権への挑戦ではない。


王家を否定したわけでもない。


「だが……秩序は揺れた」


その言葉は、誰に向けたものでもない。


彼自身への確認だった。


ようやく理解する。


断罪は単なる儀式ではなかったのだ。


貴族も民衆も、


“正義が最後に現れる”という安心を共有する装置。


善悪を明確にし、


終わらせるための象徴。


それが機能しなかった。


終わらなかった。


判断が、観客に委ねられた。


王子は目を開く。


机の上の三通の紙が、まるで三つの未来のように並んでいる。


署名すれば、歴史になる。


書かなければ、曖昧なまま進む。


窓の外で、夜風が枝を揺らした。


その音だけが、決断を急かす。


王子の指が、ゆっくりとペンに触れる。


だが、まだ持ち上げない。


この瞬間、


彼は初めて“統治する側”として孤独になっていた。

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