表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/63

第二幕:波及

① レディアナ家への接触


数日後。


レディアナ家の応接間には、いつもと変わらぬ花が飾られていた。

紅茶は温かく、銀器は磨かれ、言葉遣いも丁寧だった。


何ひとつ、乱れてはいない。


だが空気だけが違った。


「婚約の件ですが……念のため、再検討を」


柔らかな声音。

しかしその言葉の裏にある距離は、はっきりしている。


「領地監査も、形式的な確認です」


「社交会への招待状は、今季は調整が入りまして」


どれも処罰ではない。


名指しの非難もない。


だが、少しずつ線が引かれていく。


レディアナの父は、静かに紅茶を置いた。


沈黙のあと、低く呟く。


「これは処罰ではない。調整だ」


理解している。


国家は怒らない。


怒らずに距離を取る。


そのほうが、長く効く。


訪問客が帰ったあと、応接間は急に広く感じられた。


レディアナは窓辺に立つ。


庭は変わらず美しい。


だが彼女は気づいている。


自分は再び“象徴”になったのだと。


かつては「断罪される存在」として。


そして今は——


「揺らぎの証拠」として。


断罪されなかった事実そのものが、

秩序の不安材料となっている。


彼女は小さく息を吸う。


守られたはずなのに、

守られたことが波紋を広げている。


② 学園内部


学園でも、変化は静かに進んでいた。


職員会議室。


机の中央に置かれた通達文。


「過度な思想的表現の自粛」


言葉は抽象的で、誰の名も出ていない。


だが全員が分かっている。


文化祭のことだ。


リリアナは後日、校長室に呼ばれた。


叱責ではない。


声も穏やかだ。


「君の表現力は高く評価している」


前置きのあと、慎重な言葉が続く。


「ただし、今回の件は……影響が大きかった」


机の上に、一枚の書類が置かれる。


処分通知ではない。


注意書きでもない。


「観察対象登録」


やんわりと告げられる。


今後の活動を“記録する”というだけのこと。


だがその響きは、軽くない。


リリアナは目を瞬く。


「私はただ、深く書いただけです」


本心だった。


断罪を拒んだのは、正しさではなく感情の必然だった。


人が本当に選ぶ瞬間を描きたかった。


それだけだ。


だが、校長は静かに首を振る。


「深さは、時に構造を揺らす」


その言葉の意味を、彼女はまだ完全には理解できない。


部屋を出たあと、廊下の光がやけに白く感じられた。


友人たちは普段通り笑っている。


世界は変わっていない。


——はずなのに。


彼女の名は、すでにどこかの書類に記録されている。


罪ではない。


思想でもない。


ただ“影響力”として。


そしてこの国では、


影響力こそが、最も慎重に扱われるものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ