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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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38/63

第四幕:沈黙

舞台の中央で、二人の手が重なったまま動かない。


それだけで、すべてが止まった。


① 会場


誰も拍手しない。


誰も笑わない。


誰も止めない。


完全な沈黙。


さきほどまで祝祭に満ちていた空間が、

今は息を潜めた密室のように静まり返っている。


衣擦れの音さえ響く。


誰かが咳払いをしかけ、飲み込む。


観客は理解できない。


これは演出なのか。


事故なのか。


それとも——


革命なのか。


舞台上では、ヒロインと悪役令嬢が横に並んでいる。


王子役は中央から半歩外れ、

剣を持ったまま立ち尽くしている。


構図が崩れたまま、修復されない。


沈黙が一拍、二拍、三拍と伸びる。


その長さに比例して、意味が増していく。


誰も正解を提示しない。


誰も秩序を宣言しない。


観客は、初めて考え始める。


断罪とは何か。


誰が決めるのか。


悪とは何か。


正義とは何か。


沈黙が、思考を強いる。


それは最も強い演出だった。


② 王子


客席中央。


王子は動かない。


立たない。


命じない。


止めない。


隣席の貴族が、わずかに視線を送る。


「これは……」


言葉にならない問い。


王子は舞台を見つめたまま、瞬きすら少ない。


断罪は、執行者がいて初めて成立する。


宣告。


同意。


裁可。


それが揃って、儀式は完遂する。


だが今——


舞台上の王子役は動けない。


そして客席の本物の王子も、動かない。


沈黙。


それ自体が選択になる。


止めれば、秩序は回復する。


中止を命じれば、逸脱はなかったことになる。


だが。


彼は何も言わない。


何も命じない。


その不在が、制度を停止させる。


断罪は行われない。


宣告は下らない。


儀式は途中で宙吊りになる。


会場全体が、王子の沈黙を見ている。


それが許可なのか。


躊躇なのか。


覚悟なのか。


誰にも分からない。


だが一つだけ、確かなことがある。


王子が動かない限り——


断罪は成立しない。


舞台は、凍結したまま続く。


そして。


制度は、音もなく止まった。

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