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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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37/63

第三幕:崩壊の瞬間

舞台中央。


張り詰めた沈黙の中で、ヒロインが前へ出る。


衣装の裾が、かすかに揺れる。


光は彼女を包んでいる。


予定通りの台詞。


「断罪は本当に必要ですか?」


その声は、澄んでいた。


会場がざわつく。


問いは、観客に向けられた。


舞台上の王子は迷いの表情を保ったまま、言葉を持たない。


——ここまでは脚本通り。


次は、王子が答える。


そう、決まっている。


だが。


リリアナは動かなかった。


ほんの一拍。


いや、二拍。


沈黙が伸びる。


呼吸が変わる。


胸が上下するのが、遠目にも分かる。


そして。


彼女は、さらに一歩前へ出た。


光の中心から、構図を外れる位置へ。


その瞳に、決意が宿る。


台本にはない言葉が、唇から落ちた。


「断罪されるべきは、わたくしです」


——時間が止まる。


誰も、理解できない。


舞台上の王子役が、目を見開く。


群衆役の生徒が、台詞を忘れる。


客席から、かすかな息が漏れる。


それは事故か。


演出か。


それとも。


宣言か。


リリアナは、震えていなかった。


「わたくしが、彼女を追い詰めました。

 わたくしが、彼女を孤立させました。

 選ばれることを望み、

 選ばれなかった者を、悪にしました」


その言葉は、舞台の空気を裂く。


脚本は、もう機能していない。


② 手を取る


リリアナは振り向く。


孤立して立つレディアナ。


影の位置。


断罪されるはずの場所。


その手を——


取った。


指先が触れ合う。


逃げない。


握る。


舞台構図が、崩れる。


光と影が混ざる。


照明はヒロインだけを照らすはずだった。


だが今、二人を同時に包んでいる。


悪役とヒロインが、横並びになる。


上下関係が消える。


中央に立つはずだった王子が、視覚的に“中心”ではなくなる。


王子役は、剣を下ろしたまま動けない。


群衆役の生徒は、互いに視線を交わす。


誰も次の台詞を言えない。


演劇部員が舞台袖で凍りつく。


「……続けて」


誰かが小さく囁くが、声は出ない。


沈黙が落ちる。


拍手もない。


笑いもない。


怒号もない。


ただ、静止。


断罪という儀式が、途中で止まった。


観客は理解し始める。


これは、台本の逸脱ではない。


構造の拒否だ。


リリアナはレディアナの手を握ったまま、王子役を見つめる。


そしてその視線は、客席中央へと重なる。


本物の王子へ。


誰が裁くのか。


誰が正義を定めるのか。


舞台は、問いそのものになった。


そして。


制度は、音もなく軋み始める。

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