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悪役令嬢保護制度下の恋  作者: 南蛇井


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第四幕:三人の現在位置

◆ 王子


夜。


執務室の灯は落とされ、

窓の外には王都の灯りが瞬いている。


王子は一人、椅子に深く腰を沈めていた。


机の上には何もない。


だが彼の頭の中には、

無数の言葉が積み上がっている。


——断罪を強化せよ。

——立場を明確に。

——迷いは弱さ。


ふと、思い出す。


舞踏会での叱責。

湖畔での沈黙。


あの瞬間、自分は「選んだ」と思っていた。


だが違う。


叱責も、沈黙も、

すべてが政治資源になる。


彼が声を荒げれば、「断固たる王子」として利用される。

彼が黙れば、「揺らぐ王子」として利用される。


どちらも、材料だ。


彼の迷いは、

すでに国家の議題になっている。


理解した瞬間、

胸の奥に冷たいものが広がる。


恐怖。


だが今度は違う。


レディアナの視線に対する恐怖ではない。

リリアナの依存に対する恐怖でもない。


国家。


見えない巨大な意思が、

彼の心を数値化し、評価し、計測している。


自分は、象徴。


人格ではなく、機能。


その事実が、

初めて本能的な恐怖を生んだ。


「……私は」


言葉が続かない。


誰に向けた問いかもわからない。


沈黙が、部屋を満たす。


今度は彼自身が、

沈黙の意味を知っている。


◆ レディアナ


窓辺に立ち、夜風を受ける。


遠く、議政院の塔が見える。


彼女は微笑まない。


ただ、静かに思考を整理している。


旧秩序派は私を排除したい。


それは明白だ。


断罪を明確化するには、

私という“不確定要素”は邪魔になる。


利益派は構図を利用したい。


私が悪役である限り、

物語は回り続ける。


そして——


粛清派。


彼らは感情を持たない。


必要とあらば、

王子すら切る。


その可能性を、彼女は冷静に計算する。


「……なるほど」


小さく呟く。


これは感情の問題ではない。


配置の問題だ。


自分は駒か。


それとも、盤を読む側か。


彼女は動かない。


焦らない。


だが水面下で、準備を始める。


接触先の選定。

情報経路の確認。

自らの立場の再定義。


断罪される側でいるつもりはない。


国家が観測するならば、

こちらも国家を観測する。


レディアナの瞳は、静かに冷えていく。


◆ リリアナ


庭園。


昼下がりの陽射し。


だが彼女の胸は、晴れていない。


王子が遠い。


目が合わない。


言葉が少ない。


「どうして……?」


理由がわからない。


自分は何か間違えただろうか。


舞踏会で泣いたことか。

湖畔で縋ったことか。


違う。


そうではないと、

直感だけが告げる。


彼は何かに追い詰められている。


自分ではない、何かに。


だがその“何か”が見えない。


見えない不安は、

具体的な恐怖よりも重い。


「……殿下」


小さく名前を呼ぶ。


返事はない。


彼女の胸に、焦りが芽生える。


もっと近くにいたい。

もっと必要とされたい。

もっと——


その思いが強まるほど、

彼女は王子に視線を求める。


言葉を求める。


証明を求める。


その不安が、

また王子を縛る。


彼は国家に圧迫され、

彼女は彼に圧迫される。


そしてその連鎖は、

まだ誰も断ち切れない。


三人は同じ王都にいる。


だが位置は、

決定的に変わり始めている。


国家は静かに観測し続ける。


迷い。

計算。

依存。


それらすべてが、

やがて一つの選択へと収束していく。

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