第14話:絆の閃光
ユグドラシルの最下層。
邪神が作り出した「黒い肉壁」が、アルドたちの行く手を完全に遮断していた。
それは世界樹の根に邪神の魔力が混ざり合い、鋼鉄以上の硬度と、触れる者の命を吸い取る呪いを帯びた絶望の障壁。
「……っ、断ち斬れない! 切ったそばから再生していく!」
カイルが『黒曜』を叩き込むが、漆黒の壁は波打つように傷口を塞ぎ、逆にカイルの剣を飲み込もうと迫る。
「マスター、防戦一方ではジリ貧です! 何らかの突破口を……!」
シオンが嵐のような連撃で触手を防ぐが、その額には大粒の汗が浮かんでいた。
その時。
迷宮の天井を突き破り、四つの輝かしい光の筋が降り注いだ。
「……え? 何、これ。すごく、あったかい光……」
リナが目を見開く。
その光は、アルドの体を優しく包み込むと、彼の魔力をかつてない密度へと押し上げ始めた。
「……これは、ミラさんたちの……」
アルドには分かった。
紅く情熱的な、けれどどこか気高い光。――ミラの魔力だ。
冷徹で精密な、青い幾何学模様の光。――ゼクスの知性だ。
荒々しく大地を揺らす、黄金の剛光。――ゴルドの闘気だ。
そして、甘く全てを絡め取る、紫の妖光。――ベラドンナの魔性だ。
「……みんな、地上から僕に預けてくれたんだね。……自分たちが空っぽになっても、俺を信じて」
アルドが静かに一歩前へ出る。
彼の背後には、実体化した四天王の幻影が、守護霊のように浮かび上がっていた。
『アルド様、ワタクシたちの力を存分にお使いなさいまし!』
『……計算完了。アルド殿、障壁の分子構造を一時的に崩壊させます。……今です!』
ゼクスの幻影が指し示した一点。
アルドは迷うことなく、そこに『星凪』の鞘を突き立てた。
「……ありがとう。……みんなの想い、無駄にはしないよ」
――ドォォォォォンッ!!
爆発的な魔力の奔流が、黒い肉壁を内側から粉砕した。
それは力任せの破壊ではない。
ミラの「王の威光」が邪神の支配を拒絶し、ベラドンナの魔力が呪いを中和し、ゴルドの剛力が物理的な壁を穿ち、ゼクスの計算が最短の勝利を導き出した。
そして、その中心にいるアルドの「深淵」が、全てのエネルギーを一本の鋭い針のように束ね上げていた。
「……今だ、カイル! 道は開いたよ!」
「おう! 頼むぜ、みんな!!」
カイルが、ミラたちが作った「光の回廊」を駆け抜ける。
その先には、世界樹の心臓――『賢者の石』を自らの核として取り込み、巨大な異形の胎児のように肥大化した邪神の本体が鎮座していた。
『……オォォ……オォォォォォッ!! 貴様らぁぁ……塵芥共が、我の……我の完成を邪魔するかぁぁ!!』
邪神が狂乱の叫びを上げ、全方位に死の波動を放つ。
だが、その波動はアルドの前に、リナが展開した「四天王の加護を帯びた聖障壁」によって、花びらが散るように防がれた。
「……掃除の時間だね。おまえ、もうそこに居場所はないぞ」
アルドの瞳が、ふわりと黄金に燃え上がる。
四天王の全魔力を一点に集約し、アルドはついに邪神の懐深くへと踏み込んだ。
一方、地上――。
全ての魔力を放出し、力なく王宮の床に座り込むミラたち。
「……ふふ。……体が、羽のように軽いですわね……。……あとは、お願いしますわよ……アルド様……」
ミラは微かに微笑みながら、地下から伝わる勝利の予感を信じ、静かに目を閉じた。
地下最深部。
絆という名の刃が、邪神の喉元に突きつけられる。
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