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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
第3章:南の霊樹、神至る深淵

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第11話:過去の幻影

リナの祈りの光によって浄化された深層迷宮の第一層を抜け、一行が足を踏み入れたのは、邪神が世界樹の記憶と結びつき、さらに深く精神を侵食する「第二層」だった。



 そこは、時間も空間も歪んだような奇妙な場所。足元には苔むした石畳が続き、頭上には星空とも深海ともつかぬ曖昧な闇が広がっている。


「……何、これ。本当に、村……?」


 カイルが指差す先には、見覚えのある故郷の村が、禍々しい炎に包まれて燃え盛っていた。


 幻影の村からは、苦しみに喘ぐ人々の悲鳴が響き渡り、幼い自分自身が、無力感に打ちひしがれて立ち尽くしている姿が見える。


『……思い出せ……お前は……何も守れなかった……。弱き者には……何もできぬと……』


 邪神の声が、カイルの心に直接語りかける。


それは、カイルが最も忌み嫌い、アルドと出会うまでずっと囚われていた「過去の自分」だった。


「違う! 俺は……俺はもう、そんな無力な子供じゃない!」


 カイルが叫び、『黒曜』を抜こうとする。


しかし、剣は鞘の中で重く沈み、まるでカイルの心を映すかのように、一歩も抜け出せない。


「カイル! その幻影は、君の過去を餌にして、君を縛りつけようとしているんだ!」


 アルドが声を荒げる。


しかし、カイルの目には、炎に包まれる村と、助けを求める人々の幻影しか映っていなかった。


「……僕が、悪いんだ。あの時、もっと強ければ……! お兄さんみたいに、強ければ……!」


 カイルの足が止まる。


その心の隙を狙って、炎の中から黒い触手が無数に伸び、カイルの体を絡め取ろうとした。


「させん!」


 シオンが素早く駆けつけ、『薄墨』で触手を切り払う。


だが、精神的な幻影に物理攻撃は決定打とならず、次々と再生していく。


「カイル、しっかりなさい! 貴殿はマスターに託された、この家の『勇者』たる存在。己の過去に囚われるなど、それがしが許しません!」


「シオンさん、ありがとう。……リナ、カイルに聖女の光を」


「うん!」


 リナがカイルに光を放つが、邪神の幻影はあまりにも強固で、カイルの心に深く食い込んでいた。


「……駄目だ。光が、届かない……」


 リナが悔しそうに顔を歪める。


「……カイル」


 アルドが、静かにカイルの肩に手を置いた。


 炎の村が、アルドの幻影によってゆっくりと包み込まれていく。


その幻影の中のアルドは、カイルが初めて会った時の姿だった。


「カイルは、俺の隣に立って、俺の背中を守るって言ってくれただろう? だったら、過去なんかじゃなくて、今、俺の隣に立ってくれないと困るんだ」


 アルドの言葉は、幻影の中の「お兄さんみたいになれなかった自分」を責めるカイルの耳に、まっすぐに届いた。


「……お兄さん……」


「カイルの剣は、過去を嘆くためのものじゃない。未来を切り開くための剣だ。……ほら」


 アルドが、カイルの腰にある『黒曜』の柄をそっと撫でた。


「あの時、お前は何を守りたかった? ……今、お前は何を守りたい?」


 アルドの問いかけが、カイルの心の奥底に響く。


 彼は、初めてアルドと出会った時のことを思い出した。あの時、黙って死を受け入れるしかない自分を悔やみ、強くなりたいと願った。


そして今、彼はアルドやリナ、シオン、そして地上で戦う仲間たちを、この世界樹を、守りたいと強く願った。


「……俺は……俺は、お兄さんやリナ、シオン先生! そして……この、世界樹を守るんだ!」


 カイルの心の迷いが晴れた瞬間、『黒曜』が鞘の中で激しく震え、雷鳴のような音と共に、鞘から飛び出した!


 刀身からは、黒い光がほとばしり、村を包んでいた炎の幻影を切り裂いていく。


「これが俺の剣だ! 邪神の幻影なんかに、負けてたまるか!!」


 カイルの『黒曜』は、幻影を「斬る」のではなく、「存在そのものを否定する」かのように、周囲の幻影空間を破壊していく。


 それは、過去の自分を乗り越え、アルドの隣に立つことを誓った、真の勇者の帰還だった。



 一方、地上――。


 ミラは、地下から伝わる新たな波動に、微かに目を見開いた。


「……ふふ、やりますわね、カイル。あの少年が、これほどまでに真っ直ぐな光を放つとは……」


 ミラは、以前カイルに「アルドに守られる弟」として点数を付けていたが、今やその基準は完全に覆っていた。


彼が放つのは、アルドを護る「未来の義弟」としての覚悟の光。


「ゼクス。この光、うまく利用できないかしら? 地下の精神汚染領域の歪みを、さらに増幅させて、邪神にダメージを与えるとか……」


「……演算中。カイル殿の剣の波形を捕捉。……理論上は可能です。ただし、精神汚染が強すぎるため、地上からの直接干渉には『鍵』が必要です」


 ゼクスが眼鏡を光らせながら答える。


「『鍵』、ですって?……一体、何が……」


 ミラの問いに、ゼクスは虚空を見つめて呟いた。


「……アルド殿とカイル殿の『絆』の象徴。……恐らくは、過去の記憶に深く根ざした……」


 その言葉は、ミラを深い思索へと誘う。アルドとカイルの「絆の象徴」とは何か。


 地上の四天王たちが、地下の戦いを援護するための新たな策を練り始める中。


 地下では、過去の幻影を打ち破ったカイルが、さらなる深淵へと続く道を見つめていた。


「よし、お兄さん! 俺たち、行こう!」


 カイルの瞳は、もう迷うことなく未来だけを見据えていた。



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